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音楽レヴュー 2

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2022年5月の記事一覧

女性があるべき姿になれなかったのか?〜Sarah Meth「Leak Your Own Blues」

 ロンドンの北部で育ったシンガーソングライター、サラ・メスの音楽を初めて聴いたのは2020年だった。同年に彼女がリリースしたデビューEP「Dead End World」を通して、サラ・メスの存在を知ったのだ。
 このEPに触れて、瞬く間に彼女の才能に惹かれた。メランコリックな雰囲気を漂わせる歌声の奥底に佇む凛々しさ、フォークやジャズといった多くの要素を細やかに織りまぜた音楽性など、すでにいくつかの

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羊文学『our hope』を日本社会の中で鳴り響く音楽として聴いてみる

 最近、仕事以外でよく聴いている音楽のひとつは、3人組ロック・バンド羊文学のメジャー・セカンド・アルバム『our hope』である。理由はいくつもあるが、真っ先に印象深いと感じたのはサウンドだ。これまでの作品よりもひとつひとつの音が作りこまれ、歌詞の世界観と密接な関連性を見いだせる。そこにはこういう音にしたいという羊文学の明確な意志が滲む。

 その意志に攻めた姿勢が窺えるのも良い。『HIGHVI

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生活に潜む病巣を突いた気取らないロック〜Panic Shack「Baby Shack」

 パニック・シャックは、2018年にウェールズのカーディフで結成されたバンド。当初はドラマーも在籍していたが、現在のメンバーはサラ・ハーヴェイ(ヴォーカル)、メグ・フレットウェル(ギター)、ロミ・ローレンス(ギター)、エミリー・スミス(ベース)の4人。
 活動を開始して以降、BBC Radio 6 Musicにプッシュされるなど少しずつ知名度を高めてきた彼女たちは、飛びぬけた演奏力を持たないバンド

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DigDat『Pain Built』

 ディグ・ダットはサウス・イースト・ロンドンにあるデプトフォード出身のラッパー。UKドリル・シーンの中でも特にアンダーグラウンドな存在だった彼は、2018年にリリースしたシングル“AirForce”のヒットで大きな注目を集めた。その後は2020年のファースト・ミックステープ『Ei8htMile』を全英アルバムチャート12位に送りこむなど、商業的成功にも恵まれている。

 『Ei8htMile』のヒ

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