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世界で沼にハマる人を続出させ、深く社会と自分を見つめ直させる「はじめてのおつかい」:癒しと論争と人生の教訓

本記事は、タイトル通り、「はじめてのおつかい」の海外での反響を通して、コンテンツが持つポテンシャルについて触れてみます。

Netflixで「はじめてのおつかい」見てる人いる?
なぜ私が泣いているのか教えてください


世界で反響を呼ぶ「はじめてのおつかい」

2歳~5歳の幼児が奮闘・活躍する日本テレビの名物番組「はじめてのおつかい」が、2022年3月31日より Netflix で世界配信されており、すごい反響を呼んでいます。


海外の配信は今回が初というわけではなく、従前、Old Enough! というタイトルで香港や台湾、ベトナム、ハワイ等を中心に吹替版が放送されてきており、英語のWikipediaに項目もあります


ですが、今回のNetflix の配信は、190の国と地域への同時配信ということで、改めて大きなインパクトをもたらした模様です。反応も様々あります。
Twitterでは比較的好意的な投稿が多いように見えます。例えば、 old enough Netflix で検索すると幼児の健気に奮闘する姿に心打たれた方々の投稿が読めます。

Netflixで「はじめてのおつかい」を見ている。少女が2度目の時計屋探しの旅に出ようと、みんなが応援している場面で…

Netflix で「はじめてのおつかい」を見てる。もしソウタが魚を拾いあげて食料品を持って坂を上れるのなら、私も学期末を乗り切ることができると自分に言い聞かせているんだ

Netflixで「はじめてのおつかい」のシーズンを早くもっと増やして欲しい。
この番組は私の落ち込みを魔法のように治してくれたんだ。

もし Netflix が「はじめてのおつかい」の全25シーズンをオンライン配信しないのなら、俺は暴動を起こす。

日本での反響の報道

一方で、ニュース動画やWeb上での記事は、幅というか、対比させる論点の提示があります。エモーショナルなトーンでの感想や、沼にはまってしまったというレビュー、子供への教育や文化の違いに関する議論から、私はこのような子供をお使いに出す子育てには絶対反対という論争まで、多様な意見が飛び交っていて、興味深いです。概ね、愛らしいコンテンツである。同時に、設定は簡単に受け入れられるものではない。という二極が見えてくる感じではあります。

日本語でもこの反響については報じられていて、例えば、以下はイギリスでのポジティブな反応と、治安や文化の違いに対する戸惑いを紹介した記事です。


実際の議論を見てみる(ニュース動画)

いくつか具体的に実際の議論や記事を参照してみたいと思います。
まずニュース動画から見てみます。
ABC News の動画です。幼児をおつかいに出すというコンセプトや親の考え方に対するアメリカ社会の反発から、自分で行動させ、任せることは子供が育ち、スキルを獲得する上で重要という専門家の意見を紹介しています。


こちらはNBC系列 TODAYのクリップです。TODAYは、ABC Newsよりはマイルドなトーンで、「はじめてのおつかい」に対する好意的な感想も困惑や日本の独自性についてもバランスよくつまった解説になっています。


実際の議論を見てみる(Web記事)

次にWeb記事を見てみます。まずは、沼にハマっている New Yorker の記事です。

出だしから、「はじめてのおつかい」のエピソードを詳しく紹介し、日本の番組が持つ派手なキャプションや過度なナレーションも安心させてくれる要素だと述べています。

… reassure us that nothing bad is going to happen to the chubby-faced protagonists. As I watched, I found myself relaxing into the series’ dependable rhythms, which land somewhere between those of a Dodgers game and a David Attenborough-led nature show. 

… ぽっちゃり顔の主人公たちに悪いことは起こらないのだと安心させてくれる。ドジャーズの試合とデビッド・アッテンボローの自然番組の中間にあるような、このシリーズの確かなリズムに、見ているうちにリラックスしていく自分がいた。

その後も、他のエピソードを詳しく述べたり、「魔女の宅急便」に喩えたり、記者が本当に「はじめてのお使い」の沼にハマったんだなということがわかる書きっぷりです。

続いて、TIMEです。TIMEの記者も沼に落ちていました。

For the last couple weeks, my favorite pastime has been watching tiny, adorable Japanese toddlers run errands, thanks to Netflix licensing Old Enough, a reality show that’s been a hit in Japan since the ’90s.

ここ数週間、Netflixが90年代から日本でヒットしているリアリティ番組「はじめてのおつかい」をライセンスしてくれたおかげで、小さくてかわいい日本の幼児たちが用事を済ます姿を見るのが私のお気に入りの娯楽となった。

記事は、同時に、幼児たちがお使いに出る前に戸惑いと恐怖を覚えている心理面に着目しつつ、アメリカで、日本に対する畏敬の念から不信に至るまで議論が起きていることにも触れています。ですが、教育スタイル、文化、社会インフラの違い、そして日本の例外的なまでの犯罪率の低さに触れ、New Yorker の記事と同じく、だからこそ安心して見れるのだ、という風につなげています。

CNETの記者は、考えさせられる、というスタンスの記事を書いています。アニメイベントで、自身の14歳の子供を見失い、狼狽したという最近の経験を引用しながらも、日本の「はじめてのおつかい」は、子供に自由を経験させることの大切さについて考えさせる機会をくれているという思慮を巡らしています。


次はNBCから。比較文化的でありつつも、一歩引いた立ち位置の記事です。出てくる子どもたちの奮闘はかわいいと前半は触れてます。筆者自身の台湾とUSで育った体験の比較も冒頭にありつつ、一つのShowで日本の文化やありようの代表であるように捉えてしまうのには慎重であるべきとしています。

番組からすると日本は自立を促しているように見えるが、大学生を見るとアメリカより日本の学生の方が経済的にも精神的にも親に依存している。「はじめてのおつかい」を見て、責任ある共同体の姿と、個人としての自律を混同すべきではない。TV番組なのだからTV番組として楽しもうと主張しています。

NPR(米国公共ラジオネットワーク)は、「おつかい」がいかに子どもを成長させうるかについてフォーカスしています。「はじめてのおつかい」で子どもたちが(子どもたちにとっては)易しい訳では無いミッションをクリアしていく様に驚きつつ、アメリカ社会が「おつかい」がもたらすベネフィットを忘れていると記しています。そして、日本から離れ、ヨーロッパやメキシコ、タンザニア、ペルー等、世界各国の「おつかい」文化を紹介した文献を参照しつつ、どのような効能があるのか書いています。自分で意思決定する機会を授けることで大人になる準備を助ける等、より広く子どもの成長の可能性について論じようとしている形です。(避けられない話として、アメリカで子どもを放置した場合に逮捕される事情も言及してます。)最後にTakeaway として、「はじめてのおつかい」のやり方をまとめています。


最後に、「はじめてのおつかい」によって育つのは子どもだけではないという記事を。オーストラリアの Sidney Morning Herald は、記者が番組から学んだ人生の教訓を示しつつ、番組への驚嘆を述べています。(言い換えるとこの記者も沼に落ちています。)「決して諦めるな」「慌てて走ってはいけない」「挑戦しろ」等。普遍的な価値を見出すことができるというメッセージです。オチもあります。


まだ見ていない方は

以上、「はじめてのおつかい」を巡る様々な反応・議論を概観しました。1990年代にスタートした「はじめてのおつかい」は、2020年代に入って世界に感動と論争の渦を巻き起こしています。オリジナルを企画した制作陣はまさか約30年後にそのようなインパクトを与えるとは夢にも思ってもいなかったことでしょう。それこそがコンテンツの持つポテンシャルであるといえます。人々を涙させる癒やしであり、日米の文化比較や社会事情比較の素材であり、自らの教育や生き方をも振り返させる題材である。子供たちの奮闘を通して社会と我々自身を見つめ直すきっかけになっていると思います。まだ「はじめてのおつかい」を見ていない方はこの機会に子どもの奮闘を視聴して自分の想いや考えをめぐらしてみるというのも悪くないかもしれません。

もしあなたが、Netflixで「はじめてのおつかい」を見ていないなら、この冷たく死にゆく世界で、幸せを感じる機会を逃しているよ

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