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私設図書館「鈍考」 / 京都 -没入する読書体験-

鈍い時間を求めて。

京都市左京区、叡電終点の1つ手前で降りる。檜林に囲まれ、小川が流れる地域。観光客は少ないであろう駅で、自分の他に、周囲を見渡しながら歩いている2人がいる。多分行き先は同じ。

住宅街にふわっと現れた、民家と見紛う建物が今回のお目当て、私設図書館「鈍考」。ネット予約後、メールで送られてくる番号を入力して室内に入る。SFみたいでちょっと楽しい。駅で見た2人も、少し遅れて到着。

まだ紅葉の頃

多くはない書籍数も、普段手に取らない本や中々買えない本が並び、どれも興味深い。利用時間は決まっているが、まずはのんびり、読みたい本を探す。

壁一面が本棚に
室内には畳敷きのエリアも

気分に従って数冊を手に取る。まずはベランダへ。空気が澄んでいて、小鳥のさえずりを聞きながら気持ちよく読書ができる。ちょうど夕陽が傾き始めた時間。普段は自然以外の時間の流れを意識しすぎるせいで、生活が高速で回ってるんかなぁ。

ベランダ

室内はイスも良し、畳で足を伸ばすも良し。温かい光に包まれ、本に集中できる。他の感覚はかなり鈍い。思い返すと、適度な空気のゆらぎ - 風や鳥の声、ページをめくる音、お湯が沸く音 - が心地良く、本に没入していた。これらが急がない音であることが心地良さに繋がるのだろうか。

珈琲を飲みながら

誰か1人でもタイプ音を出せば壊れそう。そういえば鉛筆でメモをする人がいたな。これは良いゆらぎだった。

併設されたカフェの店主が珈琲を出してくれる。良さげなタイミングで出しますと言われ、良さげなタイミングで出てきた。落ち着いた所作と声と音だった。

規定時間が経過。良い脱力感。お寺の近くを散歩中に期せずして耳に入った読経に聞き入り、終わった時に遅れて気付いた感覚が近い。陽の陰りでなんとなく時間経過を掴むことがこんなにも心地良いのか。本に深く潜り、息き継ぎして、また潜る。水の抵抗を感じない。素敵な読書体験だった。


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