39日目 甘くて黄色い罪なやつ

いつもどおりの朝。むくむ左手。腰に刺さったぴんがひきつれて痛む。座りっぱなしの腰も痛む。寝ている間に歯を食いしばる癖があるせいか、顎っがミシミシという。顎の骨が折れてるから、傷に塩塗るようなことしたくないのだけれど、無意識のうちにやってしまうから困る。今日の夢は、仕事復帰している夢だった。太陽の下、畑のヒマワリのそばにいる私。実現することを、夢見ている。(実際、夢、みた)

朝のうちに、お隣ベッドさんは退院していった。車椅子に乗って、きれいな服を着ていた。外の世界にお戻りになるんだなぁと、輝いて見えた。はす向かいベッドの奥様はリハビリかシャワーのため、その場立ち会えなかった。お隣ベッドさんは、彼女(私からするとはす向かいのベッドさん)にもよろしく伝えてねと、笑顔で手を振り、去っていった。はす向かいベッドさんが部屋に戻ってきた時、あぁ間に合わなかった―っとちょっと残念そうにしていた。よろしくと言っていたことを伝えると、「私たちも、頑張りましょうね」と励ましてくれた。

昼食のビーフシチューでは牛肉と久しぶりの面会。デザートのぶどうゼリーに乗っている生クリームも、久々に見る。ゼリーは経口訓練の思い出がよみがえる。三食の食事ができない頃、10時と15時のゼリーが唯一口からとれる栄養だった。桃、ぶどう、お茶の三種類がランダムにでてくる。懐かしい。

作業療法士(OT)さんと、左手のリハビリをしている時は、いろんな話をする。同世代の彼女とは、お互い父の実家が同じ四国で、いつもどのルートで帰るかとか、そんな他愛のない話をしたりする。今日は、アルチンボルド展に行った話をしてくれた。すごいですね、あんな作品とかこんな作品とかありましたよ、と美術に興味がある私に教えてくれた。私はまだ行けないけど、そういう情報をくれるだけで楽しい気持ちになる。

言語聴覚療法士(ST)さんも、同世代だ。彼女とはパンの話をした。パン屋巡りが好きな私たちは、おすすめのパン屋を教えあった。「休みの日に行ってみます!」「退院したら行ってみます!」実は彼女の通っていた高校と私の通っていた高校は、古くからの付き合いがある学校で、お互いの学校を行き来する機会があった。そんな地元トークも楽しむ。リハビリはというと、読まれた数字の足し算をしていくテスト。読まれたそばから、数字を足して答えをいう。単純に足していくのではなく、前に読まれた数字と次に読まれた数字だけを足していくのだ。記憶力と瞬発力が鍛えられた。

話しに花咲かせた楽しい一日の締めに、昨日お母さんからもらったプリンをいただいた。一人、あまいものに感激。食事制限がないので、間食OK。毎日デザートを楽しみにして過ごそう。

新しく本を読み始めることにした。「90日間ヨーロッパの旅」という本。作者がひたすら歩いてヨーロッパのご当地お菓子を巡るのだ。こんなの読んだらお菓子欲が爆発してしまいそうだ。でも読む。

今日はポルトガルを歩ききった(ところまで読んだ)。歩けない私が徒歩縛りで旅行する本を読んでいる。(歩くことへの執念を感じないでもない・・・)。はす向かいベッドさんが淹れるコーヒーの香りが漂ってきて、カフェにいるようないい気分で本を読んだ。最高。しかしながら残念なことに、はす向かいベッドさんは明後日、転院が決まった。残念なのはさびしいと思う私だけで、彼女にとっては前に進むために必要な、喜ばしいことなのだ。それぞれの道を歩む。




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