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悪酔いで見た夢の中で、私は君にしがみつく

「つかまって」
私は君の首にしがみついた。もっと深く繋がっていく。酔った頭でぼーっと考える。ああ、本当に一線越えちゃった。明日からどうしよう。どんな顔で、どんな風に会話するんだろう。でも今はもっと深くもっと奥まで私のことを知ってほしい。

こんなに悪酔いをしたのは久しぶりだった。本当に、数年ぶりに。その沖縄料理屋で「薄めで」と頼んださんぴんハイは私にはまだまだ濃かったようだ。暑くて混んでる店内、カウンターに詰め込まれた私と君。沖縄の民族衣装を着た店員さんに「あと10cmずつ詰めてくださーい!」と言われれば、さらにぎゅうぎゅうになって、君の体とぴったりくっついてさらに酔いが回っていく。周りがうるさくて、互いの話し声が聞こえなくて、もっと近づいていく。

気持ち悪いまま生ぬるい夏の夜風にあたる。生ぬるくても、汗をかいた肌には涼しい。
「つかまっとき」
君は紳士に腕を私に貸し出し、まともに歩けない私は何かに縋りたくてその腕にしがみつく。あ、なんか恋人みたい。ちょっと嬉しいはずなのに思考がまとまらない。
「うちで休んで」
だめな気がするのに、思考がまとまらない。自販機の光が眩しい。

自分で靴も脱げない私は全てを君に任せ、いつの間にか君の家のベッドに横になっていた。何度も妄想した君の部屋。ぐるぐるする頭で一つずつ確認していく。「畳好きだから」と彼が自分で敷いた畳。バリのホテルみたいな間接照明。普段料理をする人の、モノが多いキッチン。ワークデスク。機材、これは妄想通り。6:30を指したまま止まっている時計に、時間の感覚を奪われる。

気持ち悪いけど酔っててよかった。もし素面だったらきっと君を拒む、いろんな理由をつけて。けど今はいろんな理由をつけて、君に抱き締められてもいいし、キスされてもいいって自分を許した。この動悸は酔いのせい?君の心臓の音を聞きたくて胸に耳をあてる。心拍数は93。そっちは?AppleWatchで確認する。全く同じ93に二人で笑った。

それは初めて見る君の表情、声、仕草の連続。ちゃんと男の人なんだって改めて思ったり、こんな風に女の人に触れるんだって思ったり。頭と体が一致しない。でも心はここにある。
「大好きだよ」
そんなわけないでしょ。否定したいはずの私は結局のところ、髪をかきあげて動く君に見惚れて、その言葉を素直に喜んだ。

いつもつけてるサンローランのリブレの香りが君にも移って、もっと特別な香りになっていく。私の香りだったはずなのに、君の影がちらつく。こんなはずじゃなかったのに。残ったのはほんの少しの後悔と、でも満たされた気持ちと、漠然とした不安。
「つかまってて」
君がそう言ってくれたら、私きっと迷うことなく君にしがみついてしまう。

でも実際に言われたら困る。なんて一人頭の中で妄想と現実を行き来し、二日酔いで怠惰に過ごした日曜日はあっという間に終わっていった。

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