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抜け出せないこの季節を恋って呼んでいいですか。

私には分かってる。それがいつ始まったか。事態が動き出したその一瞬を覚えてる。もう、ある意味での一線は超えている。身体の関係どころか手と手の触れ合いさえなかったとしても。日々さまざまに湧き起こっては移り変わるはずの感情の割合、脳のキャパ、休日に思い出してしまう数時間。さっき朝のカフェラテを淹れたはずなのに、君からのメッセージを眺めながら物思いに耽って、気づいたらもう日は暮れてる。そんな風に私の内側を徐々に君は侵食し、私の思考を作り変え始めてる。君も同じだったらいいのに。ずっと私のことを考えちゃえばいいのに。私のせいで君の大事な何かが変わっちゃえばいいのに。

君の関西訛りの「ありがとう」が耳から離れない。ありがとう。ありがとう。ありがとう。何回耳の奥で思い出してもきゅんとできる。やたら暑い居酒屋、ラミネートされたメニュー表でずっと仰いでくれたことも。誰もいないビルの30Fで東京の東の夜景を眺めたことも。帰り道バッグを持ってくれたことも。23時、ヒールを脱いでむくんだ足を投げ出した、その足首を細いと言ってくれたことも。まだあるよ、私のためにしてくれたこと全部、それが人としてのただの親切なんだとしても、全部覚えていたい。溺れていたい。私たち何も始まってないし、始めちゃいけないんだけど。

誰にでも優しいのは知ってる。誰かのことをほっとけないことも。それは君の特技・無意識レベルの気遣い。多分大勢いる気をかけるべき人たちの一人なんだろうけど、二人で眺めた1時間の夜景はその中でも特別だったと勝手に思いたい。

褒めてくれたリング。シャネルのピアス。それが私の心の拠り所になっている。歩くたびに手と手が触れる新宿の夜道。無意識に掴んでいた君のバッグの端っこ。隣に並びたかった、落ちるような浮遊感の高速エレベーター。どうしたらもっと近づける?近づいちゃいけないのは分かってるけど、妄想せずにはいられない。几帳面に見えて意外とずぼらな君の部屋はきっと少し散らかっていそう。洗濯はまめにしてる。清潔なシーツで眠ってる。夜中まで機材をいじってる。気づいたらAM3:00とかで。そうやって君がようやく眠りにつく頃一緒にベッドに潜り込みたい。何もしないよ。ただ隣にいて、触れられない分温度だけ感じて。そんな妄想ばかりして今週もまた何もしない週末が終わった。まだ梅雨なのに鈴虫のような音が聞こえる。私、この季節から抜け出せない。恋って呼んでいいですか。好きって思っていいですか。


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