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GOOD WAR TOUR 17. 丘の上に立っている


とつぜん南国風の木、歩くのが妙に遅いおばさん、でかい工場、みっつ並んだ○○荘、干されている長靴と作業着。

名村造船所跡地、4階が今回の会場。
だだっ広くて、天井が低くて、左右一面の窓から外が見える。

どのくらい掃除していないのか、掃除していてもここまで溜まるのか、埃がすごい。
3時間、端から端まで箒で履いて、ときにはモップや水拭きも駆使して一面をきれいにした。手が千切れるかと思った。

極刑かと思った。

トラックの音がうるさい。声がわんわん響く。上手側で蛍光灯がチカチカしている。
奥に窓があるので常に逆光で、表情が見えるような、見えないような……おばけみたいだ。

ときどき遠くでサイレンが鳴る。お昼休憩の合図だろうか。学校を思い出す、号令の合図。

みんなで美術を配置、客席を運んだり、考えたり、カーテンから透けて見える景色はいつも幻想的で夢っぽいな。

いい日の入る空間だ。

今日はほんとうにいい天気。南国風の木が映える。

さてそろそろ稽古を始めよう、と思って調整、始めた、と思ったら、諸江さんが滑って転んだ。ビターン! と大きな音が鳴って、全員ハッとする。
稽古中断、見てみると思った以上に傷が深いようで、ジワジワ血が溢れてくる。

傷を洗い流す諸江さん。
なんとなく背中がしょぼんとしている諸江さん。
流血の諸江さんを横目に、かかってきた営業電話から電気とネット料金の契約を進めようとする綾子さん。
隙あらば窓から黒い鳥を眺める綾子さん。

そうこうしているうちに日が傾き、ほんの数分、劇場内がほのかなオレンジ色に染まった。

ドアの隙間から夕日が差して、暗くなって、バスドラだけが光っている。
お月様みたい。

あっという間に日が沈んで、4階も寒くなって、表情はますます見えなくなる。
蛍光灯をつけると、チ、チ、チカ、と蛍光灯がつくときの音。懐かしい。
窓から、遠くのマンションの明かりが見えた。
遠くの星から応答し合うように、お互いに合う周波数を探しているように見える。

最後、諸江さんが、子供のころ車に乗っているとき、よく通る長いトンネルで息を止めて、最後まで通り切れれば願いが叶う、という遊びをしていたと教えてくれた。
子供ってすぐに願い事をするな。
何秒以内にこれを終われたら願い事が叶う、白いところだけ歩けたら願い事が叶う、流れ星、七夕、神社のお参り、ことあるごとに願い事をする。
大人になって、願い事をすることはずいぶんと減った。願いたいことが減ったのかもしれないし、願っても叶わないと思うようになったのかもしれない。

出演者3人の靴が信号機だった。

今日はほんとうに暖かかった。寒い寒いと聞いていたのが嘘みたいだ。それでも日が暮れるとぐっと冷え込んできて、なるほどこれがと思う。


稽古25回目
日時:2022年1月22日(土)
出席:だいたい全員
場所:クリエイティブセンター大阪 名村造船所跡地


本作は2021年2月に京都で上演された『GOOD WAR』のリクリエイションを行い、大阪と東京で公演を実施します。

『GOOD WAR』は、私たちが「あの日」と聞いて想像する争いと日常で構成されています。
私たちは生きている限り、これからも誰かと戦い続けなければいけません。現時点で戦っていなくても、生きている限りいつか争いに巻き込まれます。『GOOD WAR』ではいずれ来る「その日」と、過去にあった「あの日」との向き合い方を鑑賞者と共に考えるべく、だれかの「あの日」で集積された記憶のモニュメントとして演劇作品を立ち上げます。

GOOD WAR

原案 『よい戦争』(作:スタッズ・ターケル 訳:中山容 他 1985年7月25日出版:晶文社)
構成・演出 河井朗
ドラマトゥルク 蒼乃まを、田中愛美
出演 伊奈昌宏、諸江翔大朗、渡辺綾子
美術 辻梨絵子
音響 おにぎり海人、河合宣彦
照明 松田桂一
制作 金井美希
制作協力 (同)尾崎商店、黒澤健
衣装協力 MILOU
記録 田中愛美

日時・会場
2022年2月10日(木)〜2月15日(火)|北千住BUoY
※当公演は一部公演日時・内容を変更して実施されます。詳しくはルサンチカWEBサイトをご覧ください。

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