【小説】ライオン・ニルヴァーナ(前編)
水気の抜けた、見るからにぱさぱさとした質感をした白い髪が、その痩せた背中に垂れている。ライオンみたいだろ、と自らの髪を称していた彼女のことを思い返しながら、僕は帰宅したばかりの、夜の空気を吸い込んだままの身体から薄いカーディガンを剥ぎ取った。あれはどれほど前の出来事だっただろうか……仔細を思い出そうとしても僕の萎縮した脳はその芯の辺りを小刻みに震わせるだけで、思考のポーズですら取ってはくれない。なんて怠慢な脳味噌なのだと叱咤したい気持ちは、腹からせり上がっても喉頭の手前で諦