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【世界の美術館】元アートディーラーが集めた珠玉の現代アート「Correction Lombert」

 かつてPhilippe le Bel(美男王)と呼ばれたフィリップ4世によって教皇庁が置かれ、一時期キリスト教世界の中心ともなった歴史深い地区、アビニョン。南仏らしい乾いた空気と重厚な石造りの街並みはパリやフランス第2の都市と呼ばれるリヨンなどとは違い決して華やかではないが、ゴシック建築らしい力強い垂直のラインに圧倒される「アヴィニョン教皇宮殿」や4つのアーチが特徴的な「サン・ベネゼ橋」など、世界遺産にも登録された歴史地区があり、各所に見どころがある街である。

 そんなアビニョンで良い意味で異質な雰囲気を放っているのが、2000年に設立された比較的新しい現代美術館「Correction Lombert」だ。今回はこの美術館について紹介したい。

元アートディーラーが国に寄付した、異例のコレクション

 この美術館、その名の通り元はYvon Lambert(イヴォン・ランベール)氏のコレクションである。そう聞くと個人が集めた素朴な作品群を思い浮かべるかもしれないが、筆者が訪れた時だけでも美術館の中には日本でも有名な現代美術の巨匠であるChristian Boltanski(クリスチャン・ボルタンスキー)に戦後ドイツを代表する画家のAnselm・Kiefer(アンゼルム・キーファー)や1960年代から1970年代にかけて行われたコンセプチュアル・アートの先駆者であるSol・Lewitt(ソル・ルウィット)など、錚々たる顔ぶれの作品が並んでいた。Correction Lombertの公式HPによると、その他にも同じくコンセプチュアル・アートを代表するアメリカのアーティストLawrence・Weiner(ローレンス・ウェイナー)や、Cy・Twombly(サイ・トゥオンブリー)、2022年に日本でもオペラシティで個展が開催されたスペイン出身の画家Miquel・Barceló(ミケル・バルセロ)など、20世紀後半から21世紀初頭の主要な作品を数多く所有しているらしい。

▲Christian Boltanskiの作品を見ながらグランドフロアへ降りる

 これだけ豪華な作品群を所有していたなんて彼は一体何者なのだと、誰もが思わずにはいられないだろう。
 実はYvon Lambert氏、フランスのアート業界では知らない人がいないほどの重要人物なのだ。
 1960年代後半頃からアメリカで展開したミニマル・アートをヨーロッパで初めて紹介した人物、と聞けば、そのすごさをお分かりいただけるだろうか。その他にもコンセプチュアル・アートやランド・アートなどの作品群も、1966年〜2014年までパリにあった彼のギャラリーで先駆的に取り上げてきた。
 そんな彼が500点を超える個人のアートコレクションをフランス政府に寄付したことで出来上がったのが、このアビニョンにある「Correction Lombert」である。

18世紀の建築と現代アートのセンス溢れる共演

 コンテンポラリーアートならではの洗練された雰囲気と古い石造りの建物が作りだす味わいが見事に融合している点も、この美術館の見どころのひとつである。
 フランス人建築家であるJean-Baptiste Franqueが18世紀に建てたHôtel de CaumontとHôtel de Montfauconという名の2つの建築物を、南仏のマントンにあるJean Cocteau Museum(ジャン・コクトー美術館)の設計なども手がけたフランス人建築家Rudy Ricciotti(ルディ・リッチョッティ)などが美術館として使えるように改修したものだ。

▲2階の展示室。左の写真は、日本人写真家の野口里佳氏のもの。

 常設コレクションが展示されているのは門から入って左手に位置するHôtel de Caumontである。1年を通して特定の運動やアーティストに焦点を当てた作品を展示しており、内容は定期的に入れ替わる。      
 エントランスをくぐると印象的なのが、滑らかな曲線が美しい大階段だ。入場者はチケットを買った後この階段を登り、展示室へと向かうこととなる。筆者が訪れた時は2つのフロアにまたがって、写真・インスタレーション・彫刻・絵画など、多種多様なメディアの作品を鑑賞することができた。
 現代アートと古い建築が織りなす美しさをより堪能したいのであれば、グラウンドフロアにある展示室をぜひ味わってほしいと思う。連続したアーチ型の開口部が2本のプラタナスの木が青々と茂る美しい中庭と緩やかに繋がり、贅沢な空間を作りだしているのだ。

▲窓から見えるのはSol・Lewittの作品

 さてもう1つのHôtel de Montfauconは、また違った用途のために機能している。
 こちらにはアートブックを数多く取り揃えたブックショップが入っている他、150名を収容できる講堂も用意されている。そこでは毎週講義や集会、作家や詩人や建築家などの作り手を中心としたイベント、またアーティストのインタビューなどが開かれているそうだ。
 その他にも2015年から、有名なアーティストの作品に新たな光を当てたり、国際的なアートシーンから選ばれた若いアーティストを特集したりする特別展が開催されている。
 
 常設展の作品だけでも十分に見応えがある美術館だが、定期的にワークショップが行われていたりアーティストと市民の交流の場として機能していたりと、人々と美術が垣根なく繋がれるイベントが常に多数開催されている点にも注目したい。

公式サイト
https://collectionlambert.com

参考サイト
https://www.yvon-lambert.com/pages/about
https://yokohama.art.museum/exhibition/archive/1998/19980411-45.html

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