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ジェーン・スー著(2019)『私がオバさんになったよ』幻冬舎の読書感想文

リリー・フランキーといえば、ブックオフで外国人作家の棚に並べられてしまう日本人作家の代表格である。そのブックオフ外国人作家棚問題(物を知らないってマジで怖くない? ここ、それで本屋だよ、という胸騒ぎ)を正統的に引き継ごうとしているのが、ジェーン・スーさんだと思っている。

TBSラジオでおなじみのジェーン・スーさんの『私がオバさんになったよ』の単行本を読んだ。対談本で、豪華な面子が並んでいる。

『私がオバさんになったよ』の対談相手一覧
光浦靖子 
山内マリコ
中野信子 
田中俊之
海野つなみ
宇多丸
酒井順子
能町みね子

わたしが、おっと思ったのは、中野信子さん、宇多丸さん、能町みね子さんとの対談であった。

まず、最も興味深く感じたのは、中野信子さんとの対談での「受動意識仮説」「(法華経の)化城」のお話だった。まさにわたしは「化城(ドーパミン)」を求め続けていた人間なので、なるほど、と膝を打ってしまった。

次に、読んでいてつらくなったのは、宇多丸さんとの対談部分である。

宇多丸「いやホント、冷静に考えると、平然とラップを始めちゃったとか、食えるようになるまで平然と実家でニート暮らしをしていたとか、それは経済的な余裕以前に、『自分は大丈夫』と基本思えるような精神的ベースを親が作ってくれたからだよなって、最近特に思う。見えない手で背中を押してくれる人がいないと、一歩を踏み出せないままになってしまいかねないでしょう」
ジェーン「それすごくよくわかります。最後のところで自己肯定できるというのは親からの愛情を存分に受けて育ったから。親の愛情が薄かったとか、親から歪な愛情を注がれたっていう告白がここ何年かあるじゃないですか。でも毒親に対する怒りとか、本当のところ、実感としては私はわからないんですよね。わかったふりしちゃいけない」

ジェーン・スー(2019)『私がオバさんになったよ』p.194-195

幼少期のことを思い出しては怒り狂ってしまうわたしには、そういう人たちが、眩しく、無邪気な残酷さで、こちらを刺すような感じがして、何とも言えない気持ちになる。

そして、100%なのだが、加害者になるのは、こちら(わたし側)なのだ。愛されて育った人たちは道を大きくは踏み外さないし、危ない橋も渡らない。そのうえ、彼らは他人に対して寛容だし、許容できる容量がでかい。

貧困問題に取り組んでいる湯浅誠さんはそれを「溜め」と表現しているが、それは人生における余力や基礎体力のことで、親を愛せない子どもには、それがないことが少なくない。

わたしは親のようなことをしないと思うのだが、子どもを持たずに生きていこう、と思うのは、子どもの苦しみが生々しく記憶に残っているからだ。それを自分に似た人にもう一度やらせたいとは全然思えない。

そして最後に、能町みね子さんとの対談では、内縁おじさんとのエピソードが語られているのだが、スーさんが意外と豪快ではないことを正直に告白している。わたしだったら、面倒だから結婚してしまうかもしれない、とも思った。なぜなら、すぐ離婚すればいいと思っているから(笑)

いやはや、とても面白い対談本だった。そして、対談という形式は読みやすいし、なんだか読んでいて楽しい。やはり、人間はコミュニケーションを渇望している、ということなのかもしれない。




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