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笹山尚人(2017)『ブラック職場~過ちはなぜ繰り返されるのか?~』の読書感想文

弁護士の笹山尚人さんの『ブラック職場~過ちはなぜ繰り返されるのか?~』を読んだ。光文社新書より2017年11月に出された本である。

本書は電通の社員の過労死事件から始まる。驚くことに、裁判になっている電通の過労死事件は3件もあるのだという。最悪の事態が3件もあるということは、自己都合退職に追い込まれた人もたくさんいるのではないか。

国の事業を請け負い、下請けに丸投げをして、中抜きが盛んな電通さんも本業は広告代理店。広告収入、特に旧メディア(テレビ、ラジオ、雑誌)の広告は減り続けており、内実は相当厳しいはずである。しかし、まあ、政治家や有名人のご子息がたくさん採用されているので、生活には困らないのではないか、と意地悪な見方をしたくもなる。ただ、捨て駒のように働かされるのは、ご子息ご令嬢ではない人たちなのだと思われ、社内のヒエラルキーを考えただけでも、ぞっとする。

また、判例や法律から、現代の労働の問題点を明らかにしており、大変勉強になった。

そして、誰も「労働法」を学ぶ機会がないまま、労働者になる(p.25)、という指摘はまさにその通りだと思う。4年間休みが取れず、有給休暇の存在も知らない正社員の若者が笹山さんのところに相談にやって来たりもする。

わたしは、ここ最近、やっと労働法に興味を持ち始めた。我ながら遅いなあ、と思う。頭でっかちになったとしても、高校生、大学生のときに学んでおいた方がよいと思う。

笹山氏は、裁判で連戦連勝というわけではなく、負けて悔しい思いをされており、そのことが率直に書かれており、弁護士の仕事の一端も知ることができる。派遣労働や最低賃金にも異議を唱えておられ、大変心強い。アメリカでも最低時給は1,500円、イギリスでも1,400円なので、東京の1,041円は安すぎる。

本書の目次は以下の通りである。

はじめに
第1章 「ブラック職場」の正体
第2章 「長時間労働」と「やりがい搾取」
第3章 非正規と低賃金
第4章 解雇と復職の困難
第5章 人事権を再考せよ
第6章 労働法の存在理由と問題点
第7章 5つの解決策
第8章 ホワイトな社会に向けて
おわりに

笹山尚人(2017)『ブラック職場~過ちはなぜ繰り返されるのか?~』

興味がないときは、法律の話をされても、ピンとこないものだが、今はかなり強くうなずきながら、読んでしまった。

わたしの前の職場は、労働組合を作ったら、「即解雇」という職場で、それはそもそも憲法違反である。

日本国憲法 第二十八条
勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

日本国憲法

「世の中、そんなもんだ」とあきらめていた自分が腹立たしい。そんな職場は見切りをつけて、さっさとやめるべきだった。裁判になったケースもあったらしいが、労働組合が解雇の原因ではなく本人の業務遂行能力が低い、というような主張をして、和解にでも持ち込んでいたのだろう。本当に腐っている。憲法を蔑ろにしているような職場は、職場ではない、と思う。そのような職場では、基本的人権すら無視される。

著者が指摘するとおり、「経済状況が改善されれば多少は解消される余地があるのではないか(p.11)」という側面も無視はできない。ただ、職場の人数を増やせないのであれば、仕事の仕方や仕組みを変えるしかない。ただ、それを考えるのは労働者ではなく、経営者である。

「ブラック企業? ワークライフバランス? そんなものを優先していたら、業務遂行ができないでしょう」という感じで、わたしの過重労働によって、同僚のワークライフバランスが保たれていた、という皮肉な経験をしたこともある。わたしだけ、持続可能じゃないじゃん!(笑)

というわけで、職場を改善していくためには、内なる「ニヒリズム」と闘い、「あきらめ」に耳を貸さないことである。武器は? 大きな声でも、怒りでもなく、それは「労働基準法」なのである。

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