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映画『華氏119』(2018)の感想

映画『華氏119』を観た。監督はマイケル・ムーア、2018年公開の128分のドキュメンタリーだ。2016年11月9日にトランプ大統領が誕生した日付がタイトルの由来だという。

この映画は、トランプ大統領を誕生させた背景には何があるのか、というマイケル・ムーアなりの仮説と分析である。

民主党の予備選で、サンダースが勝利したいくつかの州を無視したというのは、民意が反映されていない、という点で問題だろう。そして、サンダースが永遠の野党的政治家としてしか存在できないのは悲劇でもある。

結局、中間層が失われ、貧しくなった大衆はより専制的、独裁的な政治家を選ぶようになる、というアメリカの公民の教科書通りになる、という結果であった。

これはアメリカに限ったことではなく、普遍的な現象である。庶民を痛めつける政策を続ける政党を支持し続ける大衆はどこにでもいる。

ただ、この映画で参ってしまったのは、冒頭でトランプが娘のイヴァンカに対して、「娘じゃなければ寝たい」「豊胸手術をすればすぐにわかる」などと平然と話しているシーンの数々を持ってきている点にある。父親が娘を性的に扱うことが身の毛もよだつぐらい気持ちが悪かった。この気持ち悪さによって、トランプの異常性が強調され、より邪悪な存在であるかのように感じられた。ムーアの印象操作だと言う人もいるかもしれない。が、トランプはたとえ冗談だとしても発言しているのだから、弁解はできないだろう。正直に言うと、鑑賞後に具合が悪くなってしまった。

希望を感じるのは、銃乱射事件の被害者である高校生たちが、加害者ではなく、政治家や全米ライフル協会を毅然と(ときに涙を流しながら)抗議していたり、アレグザンドリア・オカシオ ・コルテスが下院議員に立候補し、当選を勝ち取った点などにある。

記事を読むと、当選当初は、脅迫や嫌がらせの連続で、議員を続けられるかどうか、というレベルだったようだ。

マイケル・ムーアもすでに67歳(2022年1月現在)だ。後継者はいるのだろうか。各国一人ずつマイケル・ムーア的なドキュメンタリー監督が必要なのだが、あまり見当たらない。フリーのジャーナリストは自腹を切って取材を続け、アルバイトもやめられないとか、そういった話も耳にする。国全体が貧しくなると、余剰や余裕がなくなり、何もかもが先細っていくのだなと思う。それをリアルタイムに目撃しているのだ。それも、なかなかつらいものだ。

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