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しない人が読むメイク本

普段メイクをしない自分が、メイク本を読んでいる。なんだか哲学っぽい本だ。ノウハウも書いてあるけれど、それは飾り。化粧するときの常識を「そもそもそれって正しい?」と問いかけてくる、文章だけのメイクブック。

Screenshot_2021-05-26 メイクが喜びに変わる答え 面倒、苦手、難しい、センスがない、そもそもやらない……すべて解決!

「化粧に興味がないから、私には関係ない」と思っている人にも、実は関係がある。化粧の話と見せかけて「年齢を重ねることをどう受け止めるか」というテーマに通じた章もある。

例えば「シワを消したい」「シミを消したい」という悩み。それ自体は美容分野の問いに見えるけど、背後にはこんな思想が隠れている。「歳を取るのは悪い、醜い、できたら隠したい。だからその痕跡を消したい」。

こういうとき「わかりました!最新医療でシワもシミも取りましょう!」と答えるのは、果して正解だろうか?

「それがいい」と言う人もいるだろう。だけど、別の答えだってある。すなわち、歳を重ねること、その証に対しての考え方を変えること。この本の著者は、随所でそれを訴える。

シワが邪魔だなんて切ないことを言わないでください。

僕はシワに尊敬があります。
シワだらけのおばあちゃんとお会いすると、これまでの人生が推察され、涙がこみ上げるときもあります。

誰がなんと言おうが、シワは美しい。
美しいに決まっています。
(…)なるべく維持することも改善することも素晴らしいですが、それらをどうにかしなくては美しくないという考え方をやめていけばいいのです。
シミができようができまいが、いい人生を生きているし、私は私の顔が好きだと思える人生は、幸せ確定の人生です。

確かに、手術で綺麗になれたとしても、それは一回性のものだ。生きている限り美容施術を続けるのは、不自然で苦しい感じがする。それくらいなら、いっそ「それ込みで、これが私の顔。これが私の人生」と思える境地を目指すほうが、健全で美しい。

また「左右対称の顔にしたい」の相談に対する答えも正論だ。「メイクで左右対称は作れません。体の使い方を見直すことで、結果的に対称に近づくことはあります」。顔はそもそも左右非対称であり、化粧だけでどうにかできるものではない。それを受け入れた上で、全体のバランスを考えるのが大事、とのこと……。まったくおっしゃる通りです。

「そもそもそれって正しい?」と問いかけること、その姿勢が全ページに渡って貫かれていて、やっぱり哲学っぽいな、と思う。

「老いが悪いって本当ですか?」
「『雰囲気を明るく見せたい』って思うのはなぜですか?あなたはなぜ明るく見られたいのでしょう?そう見られることで、失う魅力はないですか?」
「『顔を白くしたい』──『美白=美しい』は本当ですか?」

漠然と信じている常識って、どこまでホントなんだろう。悩みの治療法は、間違った思い込みを止めることなんじゃないか?化粧で欠点を隠すことじゃなくて。

そしてそれは化粧だけじゃなく、すべての悩みに言える。その苦しみ、前提が間違ってない?そもそもどうしてそんなことで苦しんでるんだろう?「あれが普通だけど、自分はそうじゃない」「これが素晴らしいけど、自分はそこから外れている」と悩む。その「普通」「素晴らしい」は、どこまで事実だろう?

顔だけが真っ白な人を、私は綺麗だと思うだろうか。思わない。美白がいつも善ではない。明るい雰囲気はそんなに大事だろうか。大人っぽい魅力のある人なら、むしろそれを追求してほしい。老いと闘ってばかりいる人ってどうだろう。正直、必死さを感じてあんまり近寄りたくない。年齢を重ねて漂う精神的余裕のほうが、シミひとつない顔よりずっと憧れる。

メイクがテーマのようでいて、人生を考えさせられる、不思議な本だった。


同じ著者の本はこちら。

Screenshot_2021-05-26 毎朝、自分の顔が好きになる


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本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。