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生きづらさ応急処置

 精神科、心療内科、カウンセリング。同世代の子と話すと、必ずそのどれかが話題になるような錯覚に陥っている。本当はもっといろんな話をしてるはずなんだけど、いかんせんこれらのインパクトが大きすぎる。
 
 高校生の頃、カウンセリングに通っている友達がいた。カウンセラーは基本的に話を聞くだけだ。傾聴し理解を示し、話した内容は外に漏らさない。でもそれだけだ。

 気持ちが楽になる薬を処方することはできないし、医学的な診断を下すこともない。「鬱病です」という診断書も書かないし、「これを飲んで楽になってね」と薬を出したりもしない。

 ただ聞くだけ。
 
 だからその子は一瞬だけ、精神科にも通ったことがある。「恐かった」と言っていた。処方された薬を飲むと、何も考えられなくなる。ただものすごくお腹が減ってとにかく食べたくなって、一週間で3kg太った。恐くなって薬は止めた、と。
 
 ひとつ上の男性は、パニック発作を患っていた。湿度が高くなると、発作を起こす確率が高くなるらしい。それで雨の日に外に出るときは、薬を叩き込んでいた。確かに「叩き込む」という表現を使って話していた。

 この人はメンタルの不調で会社を辞め、カウンセリングに通っていた。発作の薬はどこで処方されたんだろう。精神科か、心療内科か。治療のかいもむなしく鬱病を患うようになったあとは、連絡が取れてない。
 
 4歳年下の男性。精神的に辛くて仕事が手につかなくなって、精神科に行った。医者は一切こまかい話を聞こうとせず、薬を処方されておしまいだったらしい。精神的に参っている人が多いせいで、医者も流れ作業になっているのだろう。

 いま彼は薬に依存して生きてる。それを飲むと眠くなり、気づくと目が覚めるらしい。悩んだり苦しんだりすることができなくなると言う。高校のときの友達の話と合わせて考えると、薬は根本的な解決にならない。なってない。
 
 自分も中学と大学でカウンセリングに通っていたし、社会人になってからも同じようにしている。長年かよっている甲斐あってか、生きづらさはずいぶん消えてきている。薬は飲んでいない。いや二回だけ行った心療内科で漢方薬を処方された。葛根湯。

 正確には「葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)」。メンタルに効くかどうかは知らない。鼻づまりに効くらしい。
 
 何事もなく元気で健康な子もたくさんいる。ただ、たぶん世間が考えている以上に、心理的な問題で悩む人は多い。だからカウンセリングサービスも増えてきて、政府が「悩み相談ダイヤル」を創設したりもする。

 なんでこうなるのかよくわからない。なにがどうして生きづらい人が多いのか、明確な答えを持ってない。ただ結果だけが目に入る。なんか病んでる人多くない?っていう結果だけが。
 
 どうすればいいんだろうな。何が原因なんだろう。よくわからない。人によって「資本主義社会が悪い。人々を孤独にしている」とか「個人の努力が足りない。精神病は甘え」とか言う。そうですか、で、どうしましょうか。薬飲ませて頑張らせる気ですか。
 
 大学のスクールカウンセラーはあるとき「就活乗り切るために薬飲んでる子もいるんですよ……」と悲しそうにこぼしていた。そういう子は、就活終わったあとどうしたんだろう。いやそもそも乗り切れたのだろうか。

 どうすればいいんだろう、そういうの、ぜんぶ。
 
 自分も答えがない。応急処置として
「話を聞いてほしいならカウンセリング」
「身体に症状が出ているときは心療内科」
「精神に来てる(and薬が欲しいとき)は精神科」
としか言えない。

 心療内科でも薬は出るけど、こちらは「身体」寄りになる。自分が鼻づまり用の漢方薬をもらったみたいに。応急処置の話。


本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。