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進歩したからカレーが作れる。

 カレーを作った。カレールーなしで作るやつ。メインの具はサバである。結末から言うと、それなりによくできた。中学校のころ作ったカレーは小麦粉と水の味しかしなかったので、それを思えば大きな進歩。
 
 いま読んでいる『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』には、こんな話が出てくる。著者は料理を教えているアメリカ人女性で、レトルトに頼らない食卓を目指している。彼女が日系アメリカ人女性の家にお邪魔すると、台所にはカレールーが置いてあった。
 
 このくだりには、「日本の食品メーカー製のカレールーと呼ばれる調味料」と書かれている。アメリカでは一般的ではないらしい。著者は箱に書かれた成分を見て、これは塩分が多すぎると判断する。カレールーに頼らずに済むなら、そのほうがいい。
 
 印象的だったのは、この話の最後に書かれた件の日系女性のセリフ。
「カレーってルーなしで作ることができるの?」(※)
 
 わたしも同じことを思っていた。カレーってルーなしで作れるの?そもそも中学で大失敗して以来、結婚するまでカレーは作らなかった。ルーを使って作れるようになったのは、つい最近の話である。
 
 せっかくカレールーを扱えるようになったのに、体に悪いようなこと言われちゃうとなー……。もやもやしながら、その部分を読み終える。そうこうしていたら、旦那さんがサバカレーが食べたいと言い出した。
 
「ほら最近、魚食べてへんし。きみも妊娠してるんやから、バランスいいほうがいいやろ」
 どうやらサバカレーを「妊婦向けレシピ」として紹介している人がいたらしい。妊娠中に必要なDHAが摂取できるから……とかなんとか、そんな理由で。サバである必然性はあるのか?とツッコみたい気持ちはあるけど、せっかくだから乗ることにする。
 
 そうね。ならちょうどいい。カレールーなしのカレーを作ろうか。
 
 調べてみると、サバカレーのレシピはネットにいくつも転がっている。その中でも初心者に優しそうな、材料の少ないものから選んで作った。参考にしたレシピは以下。初めて作るので、パソコンのページを開き、台所横に置いたまま首っ引きで調理する。

 
 結果的に、それなりのものができたのでよかった。生姜の量が多かった分、やや辛めの仕上がりにはなったけど、ちゃんとカレーの味がする。ルーなしでもカレーができることが立証された。料理の腕が一歩、前進した気がする。
 
 『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』の中には、ほかにもいろいろなお役立ち知識が出てくる。たとえば、野菜はしなびてしまったら捨ててしまいがち。この解決方法は、とりあえずスープにすること……とか。日本なら、みそ汁に入れればいい。
 
 これを読んでから、余ったレタスをコンソメスープにすることを覚えた。もちろんレタスだけだと淋しいので、ソーセージとじゃがいもを入れたりする。そうすると見た目も立派にスープになるので、目にもおいしい。
 
 小さな変化ではあるけれど、この本、確実に食卓を変えてくれた。食事がいいほうに変わることは、人生がいいほうに変わることでもある。そういう意味では「人生を変えた本」と言って間違いじゃない。ささやかであっても変化は変化だ。
 
 次にやってみたいのはパスタかな……。実は作ったことがないので。というのも、結婚前まで暮らしていた街にはパスタが売りの喫茶店があり、作るくらいならそこに行って食べたほうが早かったのだ。
 
 「作ろうかな」と言っておきながら、今日も久しぶりにそこに行って食べてきた。日替わりのランチパスタには、小松菜とイカ、それから葱が入っていた。むかしはただおいしく頂いていたけど、いまは「これウチで作れるかも。具材をメモしていこ」なんて思う。進歩。


(※)文中のお話は、キャスリーン・フリン『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』村井理子訳、きこ書房、2017年、68~71頁より。

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