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27泊28日  続き

キャンプの話の続きです。

小学校高学年から中学校1年まで、
27泊28日キャンプに参加していたため、
夏休みの宿題をまともにやったことがない。

電気がないので、宿題をやる明かりがないし
そもそも夜は眠い。
朝は飯炊で手がいっぱいである。
晴耕雨読というが
雨が降ればすべての荷物が濡れるので
ノートも鉛筆もよくわからない残骸となる。

とはいえ
キャンプに参加した全員が
新学期に宿題を提出していないとは考えにくいので、
単に私が不器用だっただけかもしれない。

毎年クリスマス前になると、職員室に呼ばれ、
「夏休みの宿題が出てこないと2学期の成績がつけられないから、何とか提出してください」
と先生に頼まれたのは良い思い出である。

話を夏に戻す。

中学生になり、少し大人になると
大人の相談員と、子供のキャンパーの間のような位置になる。
子供の心もわかりつつ、
大人を補佐する中間管理職といったところだろうか。

私においては、
基本がお山の大将タイプなので、
たいした世話などせず
小学生の子分たちを引き連れて楽しく暮らしていた。

小川に大きな石を放り込んで
水をせき止め、
天然のプールを作った。
「水深1メートルをめざすぞー!」

重労働に励んだ。

次に、
その上に浮かぶ海賊の島を作ろうとして、
全員で沢のちかくから竹を何本も切り出した。
竹は中が空洞なので何本か束ねれば水に浮くだろうと言う目論見だった。
3日か4日かけて竹を切り出したのに、
子供の力で蔦をしばってつくった筏はあっという間にバラバラになり、
無残にずぶずぶと沈んだ。

縄文人にならって土器を作ろうと粘土を集めたこともある。
拾ってきた木の枝でちょっと焼いてレベルでは、
謎の日干しレンガみたいな一部砂利まみれの物体ができた。

そんな感じで
見切り発車のいい加減なプランに踊らされるので
ついてきた子たちもかわいそうだったが、
素手で魚を捕まえる方法とか
小刀のちょっとした使い方とか
まあ役に立つこともいくつか教えたから
いいと思う。

子供というのは
子供なりにきちんと自我があって
考えがあって動くので
一緒に暮らしているととても興味深い。

ある時、非常に真面目な顔をして
1人の男の子が私にこう宣言した。
「俺は、今日この瞬間から、
皿を洗うのをやめる。」

時間がもったいないのだそうだ。
皿洗いの時間を
もっと有用なこと、
遊びや虫取りに使うべきと
結論したらしい。

今だったら衛生ガイドライン等があって
そういうわけにはいかないと指導するのだろうが
あまりにも毅然としたその態度に
私はひどく感じ入りこう答えた。

「おお、じゃあやめとけ。」

男の子もこう答える。

「おう」

とはいえ
ふと思いついたアドバイスだけした。

「カビが生えたりすると体に悪そうだから、
洗わなくてもいいから、
天日干しにしとけば?」

沈黙し考えた後
男の子が返事をした。

「わかった。」

1週間ほどして、
何日分ものご飯とおかずの残りが
カピカピになったお皿
彼は、黙って川の水に浸して洗っていた。

「気づいたんだけど、
清潔な皿で食べる飯の方がうまい。」

…人類はきっと
それに何千年か前に気がついたんだとは思うが
気づいてもらえてよかったです。

またある時は、
帰り支度がなかなか進まない男の子がいた。

言ってはなんだが
30日もキャンプしていると、
普通みなパッキングの達人になる。

私は今でも小さなトランクに、
詰め込め得る最大質量の荷物を詰め込む自信がある。

その子はいつまでたっても
広げた荷物の真ん中で途方にくれていた。

しかも、荷物が詰まっている気配がないのに、
リュックサックが重くて持ち上げられないと半泣きになっている。

「手伝ってあげるよ。」と言ってリュックに手をかけて驚いた。
尋常じゃなく重い。

開けてみると
数週間の間に集めた河原の丸くてきれいな石が
ぎっしり詰まっていた。
「これはお母さんと、妹と、〇〇ちゃんと△ △ちゃんとお父さんと、一番小さな弟にあげるお土産だ。」と言う。

ほかの荷物は
石に比べたら
大切じゃないから
入らないならおいて帰る
という。

「うーん
川の神様に失礼だから、持って帰るというか借りて帰る石は1つだけにしてやー」
見ていると
丸一日うんうん言いながら、黒くてすべすべしたきれいな石を選んでいた。
きっと
大人になる過程で
忘れてしまったとは思うが、
今でも
机の引き出しの片隅にでも
持っていてくれているといいな
と思う。

あの時の
あの瞬間は
石以外は全部捨てて帰ろうとしていたくらいだし。

そんなこんなで
豊かな夏休みを過ごさせていただきました。

ラジオ体操にも
一日も参加したことがなく
学校の友達とは疎遠になるばかり
だったけど。


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ありがとうございます。毎日流れる日々の中から、皆さんを元気にできるような記憶を選んで書きつづれたらと思っています。ペンで笑顔を創る がモットーです。