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#1. 映画化を実現させるための映画文学とは?

初めましての方も、いつもご覧いただいている方も改めまして、映画のメトダの筆者、ポーランド在住の映画監督の水谷江里です。

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多摩美術大学を卒業後、ヨーロッパの名門ポーランド国立ウッチ映画大学を卒業し、現在映画監督としてポーランドで活動しております。

noteやTwitterを通して「どのように海外で映画監督として活動しているのか?」と言うご質問を度々頂きます。

その中でもやはり自分のアイディアを映画化するにあたり大事なパケットの用意の仕方を聞かれます。

パケットとはいわゆる企画書であり、世界共通で使われております。
パケットなしでは海外での映画制作はあり得ない…と言っても過言ではありません。

では、そのパケットには何が含まれているのでしょうか?

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パケットは以上の5つが基本となっております。

正確に言うと、監督が準備する文章資料となります。

この資料作りはその企画が映像化のどの段階にあるかで必要な物が異なり、このほかに想定キャスト、ロケ地案、ティザームービー、ムードボードなども付けたりします。

また、プロデューサー側からの文章資料(予算、スケジュール、配給戦略等々)も追加されパッケージが完成されます。

今回からの記事はそのパッケージの中でも最も重要な

logline / ログライン
Synopsis / シノピシス
Treatment / トリートメント

の三つの書き方をメインに説明していきたいと思います。

が、その前に、海外でどのように若い映画監督が自分の映画の映像化まで漕ぎ着けるのか…映画化までの流れをまず最初にご説明したいと思います。

今回は、現在製作中の私のドキュメンタリー作品『Grace(仮)』を例に出しながらご解説したいと思います。

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ドキュメンタリーとフィクションでは少し準備するテキストの書き方や準備するパッケージの内容が違ったりするのですが、大まかな流れでは同じだと思ってください。また、詳しく文章資料の書き方を説明するにあたって、フィクション映画をメインにご説明していきます。

さて、私が『Grace』のアイディアの着想を得たのは2014年。

そこから、紆余曲折あり撮影のご許可を頂いて2019年に撮影することとなりました。

プロデューサーを見つける

基本的に若い映画監督にとって最初のハードルはプロデューサーを見つけること。EUの場合は制作プロダクションを持っている又はプロデューサーとして個人事業主として活動している人と一緒に働けるかどうかが、ポイントとなります。

と言うのも、最低でもプロデューサーがいない限り、大きな助成金プログラムや映画祭にアプライ出来ないと言う大きな壁があるからです。

私の場合、すでにプロデューサーが居たので、プロデューサーを探すという作業をせずに済みました。しかし、多くの若い監督が企画を映画化するためにプロデューサー探しを行います。

プロデューサーを見つけるための支援プログラム

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プロデューサーとコンタクトを取る方法はいくつかあります。

プロダクションの企画募集に応募したり、年に1回ほど行われる企画持ち込み会に参加したり、又は連絡先がわかれば直接連絡したり…

ポーランドではプロデューサーを探すための企画支援プログラムがいくつかあります。有料ですが、若い監督に商品としてどのように企画を売り込んでいくか、そのノウハウを教えてくれたり、企画自体のブラッシュアップを目的とし最終的にプロデューサーへのピッチングを行ったりします。
ピッチングは映画の企画プレゼンのような物です。

その時点で最低でも必要なのが上記で挙げた

logline / ログライン
Synopsis / シノピシス
Treatment / トリートメント

の3つです。ドキュメンタリーの場合は試し撮りした素材を編集したティザームービーも重要な要素になります。(ティザーについては今回は詳しくは説明致しません)

これらは企画がどんなものであるかの要となります。そのため、ここで躓くと先はありません。

一般的にプロデューサーは

logline / ログライン
Synopsis / シノピシス
(あればティザー)
Treatment / トリートメント
脚本

の順に目を通していきます。

この過程で一つでも面白く無い箇所があれば、次に目を通されることはありません。

企画に付加価値をつけていく

さて、文章資料が魅力的であなたと一緒に映画を作ろうと言うプロデューサーが現れたとします。次に行うのは企画に付加価値をつけていく作業です。

当然、若いあなたには何の実績もないので、映画化への投資の価値は企画の面白さのみにかかっています。

企画の価値を高めるには主に二つの方法があります。

1.支援プログラムへの参加

『Grace』の場合は3つのプログラムに参加しました。まずはdevelopment 企画初期にDoc Lab development という支援プログラムに参加しました。

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この企画はより良いパッケージを作り、最終的に若い監督たちがプロデューサーを見つける為のプログラムです。このプログラムの良い点は当然、パッケージのブラッシュアップが出来ることと、すでに運営陣が持っているポーランドのプロデューサーとのコンタクトの場を与えて貰える事です。参加者は最後にピッチング(企画プレゼン)をします。招待されたプロデューサーたちは半年間支援プログラムで練られた企画であると言う安心感を持ってそのプレゼンを聞きます。このピッチングでは9割の企画がプロデューサーを見つける事に成功しています。

私の場合はプロデューサーが既にいたので、パッケージのブラッシュアップと将来に向けてのピッチングのトレーニングの意味を重視しての参加でした。

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二つ目のプログラムはEURO DOC 2020 こちらはヨーロッパ最大のドキュメンタリー映画支援プログラム。主にプロデューサーが企画を持って参加します。こちらは世界有数の映画祭のコーディネーターやプロデューサーが配給や映画祭での受賞までを視野に入れ、資金集め等のアドバイスを行なっていきます。

三つ目のプログラムは DOC LOB POLAND START。ポーランド最大のドキュメンタリー支援プログラムでアカデミー賞ノミネート作品を多数輩出しているクラクフ国際ドキュメンタリー映画祭と連動しています。こちらに選ばれた企画は世界最大の映画祭、アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭のプログラマー等から助言をいただきながら映画祭にて行われるピッチング(企画プレゼン)とco-prodaction marketをに参加します。受賞すると一部資金援助や他の有名映画祭でのピッチング資格を得られます。

2.映画祭への参加

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(ライプツィヒ国際ドキュメンタリー映画祭 Co-Prodaction Market)

映画祭の参加には2通りの方法があります。前述した映画祭関連のピッチングを含む支援プログラムへの参加、又はCo-Prodaction Marketへの参加です。

どちらも、応募した上で厳しい審査の上で参加が決まります。

『Grace(仮)』ではこのような形で映画祭に参加しております。

2019 クラクフ国際ドキュメンタリー映画祭 Co-Prodaction Market.
2019 ケルン国際映画祭 European Work in Progress ピッチング受賞
2019 ライプツィヒ国際ドキュメンタリー映画祭 Co-Prodaction Market.
2020 クラクフ国際映画祭 DOK LOB POLAND START ピッチング/Co-Prodaction Market.
2020 Hotdocs 企画支援プログラム ショートリスト
2020 アムステルダム国際映画祭 ポーランド代表 ピッチング

このように、企画にどんどん映画祭の経歴をつけていきます。

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(ケルン映画祭にてプロデューサーAnna Fam)

ケルン国際映画祭は知名度的には低いですがEuropean Work in Progressは前ロカルノ映画祭メインプロデューサーが重要な役割を持っている団体で、ここでのピッチング受賞は企画にかなりインパクトを与えてくれました。

それ以外に世界5大ドキュメンタリー映画祭の一つであるライプツィヒ国際ドキュメンタリー映画祭のCo-Prodaction Marketの参加は全世界から応募された600企画以上から30企画まで絞られます。

そして世界最大のドキュメンタリー映画祭であるアムステルダム国際映画祭でのピッチングも大きく私たちの助けとなりました。

もう一つのポイントは北米最大のドキュメンタリー映画祭であるHotdocs 企画支援プログラムのショートリストに残ったこと。ドキュメンタリー映画ではヨーロッパのアムステルダム、北米のHotdocsと言われるほど重要な2大映画祭の名前を冠することが出来たのは最大の強みです。ちなみにショートリストとは最終選考まで残ったと言うことです。大きな映画祭ではショートリストも十分な経歴となります。

基本、これらの支援プログラムの講師や審査員は有名映画祭のメインオーガーナイザーであったり、現役の映画関係者が殆ど。なので、完成前から業界で企画を宣伝する効果もあります。

経歴はいわゆる魅力的な企画である一つの証明です

これらの経歴がつくことで、資金援助を得やすくしていきます。そして、その支援プログラム、映画祭の応募にもパッケージ=文章資料が最大限重要となってくるのです。

次回は文章資料の役割を詳しくご説明いたします。


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