見出し画像

中途失聴の人工内耳手術。

みなさんは人工内耳手術を知っていますか?
このnoteは中途失聴になり、20代前半で人工内耳手術を受けた私の体験記です。人工内耳手術に対して悩んでいる人へ向けて書きます。つらつらと、長いです。手術による聴こえの変化には個人差があることと、5年前の記憶を呼び起こして書いていることを念のため申し添えます。

人工内耳とは

聴力は失ったら戻ってきません。人工内耳手術は、頭の中に装置を埋め込み、聴神経と脳を繋ぎ、直接脳に音を伝える技術です。こんなざっくりではなく、もう少しちゃんと説明は、下記のパラリンピックリポーターの方の記事が読みやすくわかりやすかったです。

難聴の進行

私が初めて聴力検査に引っかかったのは中学3年生の頃でした。健康診断で、高い音と低い音の二種類のチェックがされますが、右耳では低い音が聴こえませんでした。

診断結果は、突発性・感音性の片耳難聴でした。その頃は生活に全く支障はありませんでした。当時、突発性であるため、左耳の聴力が落ちることはないだろうと言われていました。

しかし、大学生になった頃、難聴が進行していきました。突発性であって進行性ではないと思ったので、ショックを受けました。右耳だけでなく、左耳もどんどん聴覚が落ちていきました。それでも障害者手帳は発行されません。

就職活動の時期でしたし、本当に悩みました。死についても考え、声が出なくなる夢も見ました。思っていることは全てノートに書きなぐっては泣きました。そのノートは今どこへ行ったかわからないし、何を書いていたかも思い出せません。

なんとか就職し、そこでは人に恵まれましたが、難聴は悪化していき、大変でした。そのあたりのnoteはこちら。

将来全く聴こえなくなったらどうしよう、と思い悩みましたが、聴こえなくなったら最後には「人工内耳手術」というものがあるんだよ、と先生が教えてくれました。そのときは、ほっとしただけで、人工内耳手術を調べることはしませんでした。

人工内耳手術の決意

それから時間が経ち、社会人3年目の夏期休暇。定期的に通院している病院で、先生による聴こえのテストが行われました。先生が短い単語を口元を隠して話して、私が何といっているか当てるというものでした。1つもわかりませんでした。

後から母から聞くと「あめ」とか、そういった本当に簡単な単語だったそうです。

普段、私は全神経を集中し、読唇術や周りの状況を読んで聴き取りをしていましたが、実際には相当聴こえが悪いということで、人工内耳手術を勧められました。

しかし、インターネットで調べると人工内耳手術の成功率は100%ではありませんでした。「失敗すると失明する」等こわくなることが書いてありました。「私は耳が悪くなるなんて運が悪い。原因もわからないなんて、もっと運が悪い」と思っていたので、失敗するんじゃないかと思いました。

その思いを言語聴覚士(ST)さんに伝えると、「近年は本当に失敗することがない。それに難聴のほとんどが原因不明で、あなたが特別に運が悪いとかじゃないのよ」と教えてくれました。

私のような中途失聴者は人工内耳の効果が発揮される可能性が高いということで、手術することにしました。

手術はその年、2014年の秋にすることになりました。なんたって頭に装置を埋め込む全身麻酔の手術をするので、「休職しなきゃ・・」と思ったのですが、入院はたったの10日~2週間で、有給で足りました。

私は右耳より左耳の聴力が高いので、左耳を残し、右耳を手術しました。今は左耳に補聴器、右耳に人工内耳です。

入院~手術前日

入院生活は悠々自適でした。ご飯を食べ、ドラマを見て、パズルをして、日本シリーズを見て、寝る。仕事をするかもと思って持ってきたノートパソコンは一度も開きませんでした。

ただ、いつも通院している病院と、入院病棟は別なので、当然ですが知らない看護師さんに囲まれ、見知ったSTさんがいないのは少し不安に思いました。

手術前日にはOS-1を2本飲まなければいけませんでした。とろっとした舌ざわりが苦手なので辛かったです。

あとは、耳の後ろを手術するため、その周りの髪の毛をかなり短く切る必要がありました。

この髪の毛を切ってくれる理容師のおじさんが明るかったことに救われました。自分の意思とは関係なく髪の毛を切らなければいけないというのは、センシティブな気持ちになりがちですが、このおじさんが明るかったおかげで暗い気持ちにならずに済みました。

手術当日~退院

特に不安はありませんでした。手術室に入ってから全身麻酔を打たれ(痛かった)、当然ですが記憶がありません。目が覚めて、麻酔が切れてくると手術跡が物凄く痛かったです。切ったのは右耳の後ろ、数センチ(5-6センチ?)だけです。

何が辛いかっていうと、耳の後ろを切っているので、手術跡=頭なんです。頭を付けずに寝るのは不可能なので、手術跡が刺激され、全然寝られませんでした。

私は東京タワーが好きで、病室から東京タワーをひたすら眺めていました。夜の見回りでカーテンを閉めてくれる看護師さんがいて、余計なことしないでって思っていました。

頭には包帯がぐるぐる巻き(髪の毛がスーパーサイヤ人のように!)、そして顔がボコボコに腫れました。特に目の周りが酷かったです。お見舞いに来てくれた上司が、後日「元気そうだけど顔がボコボコで戻るか心配だった」と言っていました。

痛かったのは2-3日です。あとはまた悠々自適で、夜は消灯過ぎても日本シリーズを見る生活でした。その年の日本シリーズは阪神のサヨナラ守備妨害でソフトバンクが優勝しました。入院生活が比較的楽しかったのは、野球のおかげでもあると思います。難聴である私にとって野球は本当に大事なものです。野球についてのnoteはこちら。

あとは、髪の毛を洗えないのは辛かったです。頭の半分だけ洗ったりしました。

音入れ

退院後、すぐに音が聴こえるようになるわけではありません。後日、音入れにSTさんの元へ行きます。音入れしても、最初はエレキギターみたいな音が聴こえるだけでした。歩くたびに、自分の足音がエレキギターのように聴こえるのです。それが小さい子が履く、歩くとピコピコ鳴る靴のようで面白くて、わざと足音を鳴らして歩きました。

そんな音が、慣れるにつれて、言葉の聴き取りができるようになるなんて、人間の脳って本当に凄いと思いました。無音空間での「あめ」すら聴き取れなかった私ですが、音入れ後の経過テストは聴き取り率90%を超え、手術は成功したと言えます。

ちなみに人工内耳手術をすると一時的に味覚障害になる人もいるそうです。(神経を手術するから?)私はなりませんでした。

音入れのために通院したときに、手術した側の耳の中全体が耳垢のようなもので埋まっていたのでピンセットで取ってもらいました。実際は耳垢ではなく、回復液のようなやつでした。(かさぶたが出来るときの液のようなもの)

抜糸はいつですか?と聞いたら、肌に溶けるので抜糸はしないよと言われて、痛かったらやだなと思っていたので安心しました。

今の生活、聴こえ

健聴者のような聴き取りはできず、耳が遠い人ではあるものの、健聴者に囲まれた世界でそこまで難はなく生活が出来ます。私が難聴だと知らない人も周りにはいます。

健聴者の聴こえが10だとすると、中学の時は9.5、就職活動時は4、手術前は1くらいでした。今は人工内耳を装着していれば6-7くらいの聴こえだと思います。外したら0.3くらいです。(何も聞こえません。)

人工内耳のデメリット

難聴のデメリットではなく、あくまでも人工内耳のデメリットです。ダイビング(水圧?)が出来ないとかMRIが出来ないとかそういった禁忌がありますが、禁忌によって困ったことはないです。今のところ。

基本的に水がダメなので、人工内耳手術をしてからプールには1度も行ってません。海には何度か行きましたが、波の近くには絶対に行きません。後述しますが人工内耳手術は相当に高価であるため、浜辺に置いていくなんて絶対にできません。たとえ人工内耳が安価だったとしても、紛失したらそこからずっと聴こえない状態になるので、放置なんてできないです。

友達と温泉に行ったら、髪の毛を洗うのは必ず最後です。髪の毛を洗ってからドライヤーで髪の毛を乾かし終わるまで、一切何も聴こえないので会話ができません。普段健聴者寄りの生活をしているので、全く聴こえないというのは理解されづらいです。

ちなみに一応防水カバーもあるのですが使いづらくて使ってません。

美容室は手術した後に変えました。美容室では頭を触るし、ハサミを使うし、洗髪があるので、基本的に人工内耳は外しています。美容師さんは筆談してくれます。今の美容師さん大好きです。

あとはジェットコースター等は吹き飛ぶのが怖くて、カバンの中にしまうか、ずっと手で押さえておくか、です。ただ、そもそも難聴なので三半規管が激弱ですし、ジェットコースターには乗りたくないのでこれは困らないです。

人工内耳のメリット

当然、聴こえるようになることが最大で最高のメリットです。もう1つあります。それは外せば聴こえなくなることです。

勉強中(テスト中)周囲がうるさかったりしたら、音を切ります。本当に無音の世界なので逆に落ちつかない気もしますが。

ただ、本当に聴こえないので危険なので、安全なところに限ります。

人工内耳の費用

装置から入院費用まで合わせると400万円くらいです。ただ、保険適用されるので、実際の自己負担は数万円〜数十万円のはずです。私は両親が出してくれているので詳しい費用はわかりません。

ただ、パーツが高いです。充電池は一つ2万円、充電器は13万円、リモコンは4万円です。最初は全部がセットですが、特に充電池は劣化していく消耗品なので、定期的に買い替えが必要です。

そして保険に入ります。もし保険に入らずに人工内耳を壊したり紛失したら数百万円必要になります。

ちなみに毎回の通院費用は検査にもよりますが7,000円~15,000円くらいでした。通院の過程で難聴の原因を調べるために遺伝子検査もしました。これは保険適用外で5万円くらいです。

補聴器は30万円です。買い替えの目途は5年です。難聴者は貯金が必須です。

終わりに

最後まで読んでいただきありがとうございました。いつか、何年後でも、人工内耳手術に悩む方の目にとまりますように。

#難聴 #人工内耳 #中途失聴 #入院生活 #聴覚障害 #手術 #体験記 #エッセイ #note

よければスキお願いします。

よろしければサポートお願いいたします。