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幾度目の、恋

『三度目の恋』川上弘美:著

自分の好きになった人と結婚した。でもその相手は他の女性とも結婚後も恋愛をしている。主人公はそれに気づいている。
幼少期から10代のころの過去を思い出している。彼女はクラスや学校になじめなかったあの頃、小学校の用務員と出会いたわいのない話をしていた。

20年後の最近になり、彼とふと再会し、時々近所の川べりでおしゃべりをするようになる。彼女には子供も産まれ、子供もいっしょにいるときもある。ときどき一人でも。

そんなある時から主人公は夢を見るようになる。自分が、江戸時代の貧しい家に育ち花魁として売られ、そこで出会ったお客の一人と駆け落ちしようとする。夢の中の「自分」の、彼に対する「この人となら死んでもいい」という情熱への、同調と同時に醒めた視点の自分。

次の夢は平安時代、姫に仕える女房としてそこにいる自分。業平の妻となった姫様の心情を察しながら様々に思いを巡らせる女房としての自分の心情、現代に生きる私の心情が交錯しながらその時代の色恋、婚姻、人間模様と時代が描かれる。

三度目、とはどの恋愛のことを指している?と考えたけれど、実際のところ「私」の心情も、ナーちゃんのそれも、高丘さんにとっても、もう何を「何度」と数えることにあまり意味はなく、ただ滔々と流れていくひと模様と心情と時間模様に身をゆだねては理性と感情がそこに編み込まれていくだけなのではないだろうか。私たちは点のあつまり、網目の一部でしかないのだから。

その折々で、この人、このものごと、それが生物でも無生物でもなんでも、いいからその対象がよき状態になるようにと願いながら自分がふるまえること自体を、よろこびの根源にできればよいと、思う。

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