【書評】Bob Dylan, 'Lyrics 1962-2001'

Bob Dylan, 'Lyrics 1962-2001' (Simon and Schuster, 2004)

ボブ・ディランの1枚目のアルバム 'Bob Dylan' (1962) から 2001年のアルバム 'Love and Theft' までの詩を収めた詩集。

ノーベル文学賞委員会がボブ・ディランにノーベル文学賞を授与する前にやった作業をやってみた。すなわち、詩集の通読。音楽は聴かない。ひたすら、詩として読む。

結論からいうと、得難い読書体験だった。紙冊版で624頁の詩集を読切るのは時間もかかるが、一人の詩人の全体像を知るにはまたとない経験だ。

詩法の技術的側面を含め、いくつか目標を設定して読んだ。そのそれぞれに、収穫があった。だが、それだけでなく、予想しなかった収穫もあった。

それらの一つ一つを述べれば、おそらく数十冊の書物になるだろう。

ここでは一つだけ、ディランの人生とおそらく関わりがあると思われる、ある一本の糸についてふれてみる。それは、形を変えながら、ディランの詩人としてのほぼ全生涯にわたって出てくる。寡聞にして、それについて探求した研究は知らない。まだ出ていないか、あるいは、分っていながらあえて黙しているか、それとも、また別の事情があるのか。

その一本の糸とは、詩集を読むかぎり、ディランにとって実在する問題であると感じられるが、他人にとっては架空の問題に見えるかもしれない。だが、その切実さたるや、尋常ではないほど、深く強い。

その同じ問題をおそらく、過去の音楽家の多くも体験したと思われる。

それは、体験していない人間には、具体的な言葉で語ることができない。もし、語ることができる人がいるとすれば、その人はディランらと同じ音楽家の(あるいは別の職業人の)列に加わることだろう。

かりに神学的なことばで語るとするなら、それは救霊の問題にかかわる。もしくは、魂の運命の問題にかかわる。

こう言ったところで、霊や魂など存在しないと考える人々にとっては、何の問題でもありはしないだろう。あるいは、せいぜい、ドナルド・バーセルミが短篇で文字通り描いて見せた魂の姿のことだという想像しか働かないだろう。しかし、歴史的には魂について書かれた神学的文献は膨大である。それらは圧倒的な存在感がある。その多くは、バーセルミのようなフィクションでは全くない。けれども、ディランについて魂の問題を考えるのが無理だというのであれば、詩的フィクションとでも考えればよいだろう。

#書評 #ディラン #詩集 #神学

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ミオール / Mícheál

ピアニスト。楽理・韻律・神学の交わる愛蘭詩歌へ

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