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あなたに会えることが本当にうれしい/『きみは赤ちゃん』

妊娠中のnoterさんの記事でよく見かけるエッセイ集。川上未映子さんの『きみは赤ちゃん』を読んでみました。
思わず声を出して笑ってしまうような表現が満載でした!!胃もたれしてるときに読むと苦しい(笑)

ニッチな話題というか、未映子さんしか言葉にできない感覚というか、そういうピンポイントな部分が刺さりまくりました。
とくに激しく共感したのが、つわりの回復期の異常な食欲について。

なんか、味覚の解像度がこれ、まったくぜんぜんちがうのだ。なにを食べても―それがどんなにシンプルな、たとえばおくら、とか、ねぎ、であっても、そこにある「味」の厚みというか層のすべてが脳に反映される、みたいな感じで、…(略)

『きみは赤ちゃん』より

これ、よくぞ表現してくださいました…!

私もつわりが終わってからは食欲が止まらなくて、1回分のごはんに満足できなくて。一応、追加で食べるならトマトや茹でれんこんや茹でキャベツ、またはナッツやドライフルーツにしているのですが、これらが本当に美味しくて。
胃もたれするし体重は増えるからほどほどにしておかないといけないのに止められない自分が情けないなあと思っていたのですが…
妊婦ってそういうものだよね!私だけじゃないよね!と、気が楽になりました。

出産編、産後編は痛くてつらいエピソードが多かったのですが、これも事実なんだと勉強になりました。
ただ未映子さんの産後クライシスは本当に辛そうでした…徹夜に慣れていそうな作家の方ですら、ホルモンバランスがガタガタな産後の身体に授乳で眠れない生活というのは厳しいのだな、と…
普段なら抱かないような旦那さんへの恨めしさも生々しく、私も覚悟しておかないと…と思いました。自分が自分でなくなるのってとっても辛い。これは今だけ、自分のホルモンが回復してくるまで、赤ちゃんの生活リズムが安定してくるまでの期間限定だ、ということを意識したいなと思いました。

そんな過酷な生活のなかでもお子さんへの愛情があふれている様子が一冊を通して伝わってきて、泣けてきました。

誰がしんどいって、この子がいちばんしんどいのだ
おなかのなかからまったく違う環境に連れてこられて、頼るもの、ほしいものはわたしのおっぱいしかないのだ。

『きみは赤ちゃん』より

わたしはいま自分の都合と自分の決心だけで生んだ息子を抱いてみつめながら、いろいろなことはまだわからないし、これからさきもわからないだろうし、もしかしたらわたしはものすごくまちがったこと、とりかえしのつかないことをしてしまったのかもしれないけれど、でもたったひとつ、本当だといえることがあって、本当の気持ちがひとつあって、それは、わたしはきみに会えて本当にうれしい、ということだった。…(中略)…わたしはきみに会うために生まれてきたんじゃないかと思うくらいに、きみに会えて本当にうれしい。

『きみは赤ちゃん』より

親が子どもにあげられるものって、「私はあなたに会えてうれしい」というたったひとつの気持ちだけなんじゃないか、とすら思いました。

私も、自分がお母さんになって幸せになりたいから子どもが欲しいと思い、子どもを持つ選択をしました。
自分のために生み出した命。お腹のなかにいる娘にはこの世での幸せをたくさん感じてほしい、という自分本位の願い。
生まれたら、私と夫、娘の共同生活がスタートしたら、生きていくこと・生かすことに必死になってしんどくなることなんて山ほどでてくる。
それを一緒に乗り越えてほしい、というのもまた私本位の希望。

人間関係の基本をついギブアンドテイクで考えてしまい、苦しくなることが多々ありました。
でも生まれてくる娘には、「あなたに会えることが本当にうれしい」というまっさらな気持ちを大切にしたいなと思います。

生まれてきてくれてありがとう、とは思うけれど、
生んであげたのに、とか、逆に生んでごめんね、とか、どうかそう思ってしまう瞬間がありませんように。

純粋にうれしいという想いがどれだけ心を温めてくれるか。力を抜いて自由に生きていきたいという気持ちをどれほど支えてくれるか。
そういう感覚を思い出せたような、何となく輪郭をつかめたような、素敵な一冊でした。


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