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あいしてる まさかね

アラームの音って、最初の一音からはっきりきこえる時と、ぼやけた音が次第にクリアになってくる時がある。

なぜこの設定にしていたかは忘れてしまったけれど、随分と久しぶりの夜勤だったので夜勤用の時間のアラームをセットしていたら、Juice=Juiceのひとりで生きられそうって〜っていう曲がアラーム音になっていた。19時、かりんちゃんさんの芯のある声が出だしの「ひとりで」というところからはっきり聞こえた。ぱちっと目覚める。アラーム音にする曲じゃないよなとやけに冷静な頭で考える。


喪失について最近考えることが増えた。あ、もういないんだ、と急にはっとする瞬間がある。その瞬間の心の穴に冷たい風が吹き抜けるひんやりとした感覚が別れの事実よりも堪える気がする。別れの瞬間は意識しているから気丈に振る舞うことができるけれど、ボディブローみたいに効いてくる痛みが気づかないうちに全身にまわっていく。

いつもこの席にいたよな、ふわっとしたカーディガンがよく似合っていたよな、自販機で右から二番目の缶コーヒーをよく買っていたよな、柔軟剤の香りも口癖も愛用のラインスタンプも丸っこい文字も少し丸まった背中も、ふとした拍子に思い出したように現れる。

喪失を繰り返しながら歩く人生、私はこれから起こりうる数々の喪失に耐えられるほどのしなやかさを身につけることができるだろうか。喪失感とうまく向き合い付き合っていくために必要なことは何だろう。大人だから大人にならなければと思うことが増えて、素直な感情の処理はどんどん疎かになっていく。ねえ、急にいなくならないでよ。喪失のうめかたがずっとわからない。記憶も思い出もすべてが曖昧になるまで時を重ねるしかないのだろうと理解はしているけれど、その時を重ねる作業があまりにも長すぎる。

あいしてる、まさかね

この曲はハッピーエンドだっただろうか、最後の響き、マイナーコードで締め括られているその切なさを思う。あいしてる、まさかね、そんなまさかね、って冗談にして大事なことをひとつも言えてこなかったよ、軽薄な「寂しい」や「会いたい」は口に出すことができても、それは薄っぺらく上滑りして消える。ずっとこのままそうなのかもしれない。大事なことはずっと声にならないことばかりだ。


あいしてる?まさかね。


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