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小説「15歳の傷痕」75〜ピュアハート

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― リフレインが叫んでるⅡ ―

「ミ〜エハ〜ル先輩!おはようございま〜す!」

今日は日曜日、俺は裕子と正式に付き合ってから、初めてのデートに出掛けることにしていた。

前日、高校から宮島口駅まで一緒に歩いたのだが、2人で歩いているといつもは孤独に30分歩くだけの山道があっという間で、裕子がこれでもうサヨナラなんて寂しいと言ったことから、急遽今日、俺も予定が無かったので、とりあえず宮島口駅で朝10時に待ち合わせて、デートすることになったのだった。

俺が列車から降り、改札に向かう途中で、裕子は早々と俺を見付け声を掛けてくれたのだが、他のお客さんもいたので少し恥ずかしかったのは事実だ。

昨日は待ち合わせ時間だけ決めて、行先は会った時に決めることにしていたが、裕子は何処か行きたい所とか、決めて来てるのかな?

「おはよう!裕子、早いね〜」

俺は遅れるのは悪いと思って、宮島口に9時半過ぎに着く列車に乗って来たのだが、それよりも早く、裕子は宮島口駅に来ていてくれたのだ。嬉しくない訳がない。
改札を出ると、裕子がニコニコしながらやって来た。清楚なブラウスに、膝丈のスカートというスタイルだ。

「何時に着いたの?」

「エヘッ、9時にはもういました」

「えっ、待ち合わせは10時じゃったよね?」

「はい!でも先輩に少しでも早く会いたくて、早起きしちゃいまして…」

「早起きって、何時に起きたの?」

「あの、5時半には起きちゃいました。エヘヘッ」

「うわっ、俺なら二度寝するよ!」

「でもアタシは、先輩にお弁当作って、食べてもらいたかったから、そのまま起きたんですよ〜」

裕子は手に、2つのバッグを持っていた。その1つに、弁当が入っているのだろう。

「ありがとう〜。裕子が作ってくれるお弁当の美味しさは、プールで証明済だもんね。お昼を楽しみにしてるよ」

「エヘヘッ、先輩に気に入ってもらえれば、幸せですぅ」

その笑顔が、俺には堪らない。
付き合い始めてまだ日は浅いが、裕子の笑顔ほど、俺の心に響くものはなかった。

「さてさて、何処に行きたいか、考えてきた?」

「あの、ですね…。考えてないです!テヘッ」

裕子はちょっと照れて舌を出しながら言った。

「えっ?」

俺が戸惑うと、裕子はこう言った。

「実はアタシ、先輩と一緒なら何処でもいいし、何なら宮島口駅で1日ずーっとお話ししててもいいくらいなんです」

「本当に?」

「はい、本当ですよ!」

「なんだか凄い嬉しいけど、駅のベンチで1日とかは止めようよ…」

俺はちょっと苦笑いしながら言った。

「は、はい、そうですよね、アハハッ」

「じゃあ何処に行こうか…。宮島にでも渡ってみる?」

「先輩!宮島はダメです!」

「え?なんで?」

初耳だった。何か良くないのだろうか。裕子にとって嫌な思い出でもあるのだろうか。

「先輩、カップルで宮島に行くと、別れちゃうんですよ!せっかく先輩にやっと思いが届いたのに、別れるなんて、嫌ですぅ」

「えっ、そんな言い伝えがあるの?知らなかった〜。危なかったね」

「アタシも理由までは知らないんですけど…。でも事前に避けられるものは避けましょ?」

だがウチのN高校名物の大村&神戸の2人は、春の遠足で少なくとも2回は宮島に上陸しているはずだ。
だが別れるような話は聞かない。
もっとも春の遠足では、厳島神社とは正反対の包ヶ浦自然公園へ行っているので、その為かもしれない。
きっと厳島神社に、恋が叶わなかった女神様でもいるのだろう。

「じゃあ別の所にしようか。五日市のファイブスターで、ボーリングする?」

「ボーリングですか?いいですね!アタシ、結構頑張っちゃいますよ!」

「おっ、裕子の勝利宣言?俺だって頑張っちゃうよ」

「じゃあ、負けたらお弁当なしで勝負しますか?」

「え?いやっ、それは嫌だ…」

「アハハッ、冗談ですよ。ところで先輩、JRで行きますか?広電で行きますか?」

「ノンビリ広電で行こうか」

「じゃ、広電乗り場へ行きましょ!セーンパイッ!」

裕子は俺の手を取り、JRから広電の宮島口駅へと歩き始めた。

手を繋いで歩くだけでも、俺は幸せを感じる。

五日市までの切符を2人分買い、裕子に1枚渡す。

「すいません、先輩。後で切符代、払いますね」

「いいよ。お弁当のお返しと思って、今日の切符とかは全部まとめて、俺が払うから」

「そんな、そこまでは申し訳ないです〜」

「裕子も彼氏が出来たら…って夢がいくつかあったよね。俺にも夢があってさ、彼女が出来たら奢って上げるって夢だよ」

「えっ、そんなの、先輩のお財布が辛くなるだけじゃないですか?」

「それが、男は違うんだよ。好きな女の子に奢って上げるのって、ステイタスというか、何というか…」

「ミエハル先輩…。なんてお優しい…。お言葉に甘えてもいいんですか?」

「思い切り甘えてよ」

「はいっ!ありがとうございます!」

改札を抜け、再び俺達は手を繋ぎ、電車に乗った。
海側のシートに並んで座る。広電だと宮島口駅が始発だから、ほぼ必ず座れるのがいい。

「先輩と電車に乗るのって、初めてですね!」

裕子がワクワクしている。そんな裕子の表情が、俺は好きだ。

「普段は裕子は広電とか、JRとか乗って、何処かに出掛けたりするの?」

「今まではほとんど無いです。帰宅部なので、日曜日に吹奏楽部みたいに遠征とかがある訳じゃないですし」

「じゃあ今日は、滅多にないお出掛けになるのかな?」

「そうですね!だから楽しみです〜」

そう話してる内に、電車は発車した。

ちょっと揺れる度に、裕子の身体と俺の身体が触れ合う。肩や腕くらいなら大丈夫だが、お尻や太腿と言った部分が時に触れ合うと、妙に照れてしまった。

だが裕子は、それほど気にしてないようだった。男と女の違いなのだろうか?

最初は他愛もないことを喋っていた俺達だが、途中の電停からどんどんお客さんが乗ってくるにつれ、無言になってしまった。
だが、繋いだ手は、裕子がしっかり握ってくれていた。


「意外に空いてて良かったね」

「はい!まだ朝早めだからですね」

五日市のファイブスターボーリング場に到着したが、待ち無しですぐに2人分1レーンを取れた。

名前を入力出来るので、俺はウワイと入れたが、裕子はユミエと入れていた。

「ユミエって誰?」

「誰だと思います?」

クイズを出されたようだ。

「お母さんの名前?」

「ブーッ、残念でした!正解は、アタシの名前のユウコと、先輩のあだ名のミエハルを足した名前…です!」

裕子は顔を真っ赤にしながら、そう言った。

(か、可愛いなぁ…)

俺はそんな女の子らしい発想をする裕子が、増々可愛く思えてきた。

「あ、ありがとう…。メッチャ照れるんじゃけど…」

俺まで顔が赤くなった。

「アタシの先輩への思いを込めてみました」

「じゃ、じゃあさ、将来結婚して、女の子が生まれたら、ユミエって名前にしようか?」

「わわっ、先輩、結婚なんて、まだ、早い、ですぅ」

裕子は更に顔を真っ赤にさせていた。

「でも法律上、俺と裕子はお互いの親の同意があれば、結婚出来る年なんだよ」

と偉そうな事を言いつつ、俺も更に照れてしまった。

「あの、もし、アタシと先輩がお付き合いを続けて、適齢期が来たら、その時にはアタシを迎えに来て下さいますか?」

「も、もちろん!森川家にちゃんと挨拶に行くよ?」

「キャッ、アタシ、もうダメです!頭の中が先輩との結婚式だらけになっちゃう!先輩、ボーリングしましょ、ボーリング!」

「そうだね、ゴメン、俺も夢を語っちゃって。球!合う球を探そうよ」

「そ、そうしましょう」

2人して照れながら、ボーリング球を探した。
俺は12ポンド、裕子は9ポンドの球を選んだ。

「裕子はどれくらいスコア出したことがあるの?」

「アタシはですね、最高で120くらいです!」

「へえ、女子なら結構いいスコアじゃない?なかなか裕子もやるね〜」

「先輩は?最高でどれくらい?」

「俺はね、143だったかなぁ…。でも普段は100超えるかどうか、かな?」

「わ、先輩といい勝負になりそう!アタシ、本気で頑張りますよ!」

「そこは一つ、手加減を…」

「アハッ、とにかく楽しみましょ。先は…先輩からですよ」

「よし、俺からね。良い所見せなきゃ…」

俺は張り切って投げた。よし、いい筋だ…あれ?

「先輩、1本でした…」

「狙いすぎたかな、手前で曲がるし!」

「先輩、頑張ってー」

よし、奇跡のスペア狙いだ!あれ?…おいおい…。

「先輩、又も1本でした…」

「えー、ミエハルは裕子にいいとこを見せようとして、失敗した可能性があります。次の回からも怪しいです!以上!」

「アハッ、アタシにいいとこをなんて…。先輩がいい人なのは、もう知ってますよ!じゃあ今度はアタシが投げますね」

次に裕子が投げた。

「やったー、9本!」

1ラウンドを終え、2vs9という大差が付いた。

「いや、マジで裕子に負けるかも…」

「どっちでもいいじゃないですか、先輩♪楽しみましょ」

裕子の励ましを受け、最後までお互い投げあった結果…

「アタシ、103、先輩、101…。わ、アタシ、先輩に勝っちゃいました!」

「あー、1回目の2本ってのが尾を引いたなぁ…」

ガックリ落ち込む俺に、裕子は

「せ、先輩、もう1回やりましょ?」

と声を掛けてくれた。

「ごめんね、裕子。裕子に負けたこともあるけど、あまりの不出来にガックリでさぁ…」

「先輩!落ち込んでると、元気がどっか行っちゃいます!もう1回やってみましょう!ファイトです!」

「ありがとう、裕子。よし、もう1回やってみようか?いい?」

「うんっ!」

裕子は満面の笑顔で俺を励ましてくれた。受験等も視界に入ってきて、モヤモヤしている俺には、裕子の存在が本当に大切だ。

「よっしゃーっ!目指せ、オールストライク!」

「頑張れー、ミエハル先輩!」

そうして2ゲーム目を投げ切った結果…

「先輩が146、アタシが99…。先輩の勝ちです…」

「やったー!面目躍如!自己ベストかもしれん!裕子のお陰だよ、ありがとう、裕子」

と裕子を見たら、手で顔を覆っていた。

「あ、あれ?ゆ、裕子…。ごめんね、はしゃぎ過ぎたかな…。裕子?」

「なーんて。大丈夫ですよ!先輩が元気になって、良かったです!」

裕子は上を向いて、ニコッと笑いながら、そう言った。

「あっ、騙したな〜」

「エヘヘッ、ごめんなさ~い!」

俺達は顔を見合わせて、笑い合った。

「先輩、3ゲーム目やりますか?」

「どうしようか。大体3ゲーム目は腕が疲れて、スコアが落ちるんだよね、俺」

「じゃあ、ボーリングはここまでにして、何処かにお弁当食べに行きませんか?丁度いい時間ですよ」

「そうしようか?でも、何処かいい場所知ってる?」

五日市辺りはそんなに詳しくないため、まだ俺の家よりも五日市に近い裕子なら、公園とか知らないか聞いてみた。

「そ、そうですね…。あ、アタシも廿日市なら分かるんですけど、五日市はあまり詳しくなくて…」

「そっかぁ…」

「すいません、先輩…」

「いいよ、いいよ。じゃあいっその事、広電に乗って、平和公園に行っちゃおうよ」

「わっ、平和公園ですか?いいですね!広島のデートって感じですね!」

俺達は再び広電に乗って、市内の平和公園を目指すことにした。
五日市から乗るとかなり混んでいて、座ることも出来ず、2人で車内で話すのは難しかったが、裕子から積極的に手を繋いでくれた。時折目を合わせ、裕子はその都度微笑みをくれた。

(裕子…好きだよ)

(先輩…大好き!)


原爆ドーム前という電停で降り、平和公園へと俺達は、手を繋いだまま歩いた。

9月最初の日曜日なので、昼間は暑い。汗が黙っていても流れてくる。
お互いに手も汗ばんでいるが、それでも裕子は手を繋いで、元気よく平和公園へ向かって歩いてくれた。

広場に着くと、流石に家族連れやカップルで、木陰やベンチは既に一杯だった。

「暑いけど、影がないね」

「仕方ないですよ。芝生に座りましょ?」

少しでも空いている場所を探して、俺と裕子は腰を降ろした。

「じゃ、先輩、アタシの作ったお弁当、食べてもらえますか?」

少し裕子は照れながら、バッグから弁当箱を出した。

「わぁ、大きいね!弁当箱を見ただけで美味しそうだよ」

「エヘヘッ、頑張りました!食べて下さいね」

箱の蓋を開けると、おにぎり6個と唐揚げ、ウインナー、ポテトサラダがギッシリと詰まっていた。

「頂きまーす」

おにぎりから頂いた。んー、やっぱり絶品だ!モグモグ食べる俺を、裕子は穏やかな笑顔で見つめていた。

「美味しいよ、裕子!ありがとうね。裕子も食べなよ」

「アタシもいいですか?」

「裕子も早く食べなきゃ、俺が全部食べちゃうよ〜」

「わわっ、アタシも食べなきゃ動けなくなります〜」

裕子も一緒に食べ始め、弁当はあっという間に空になった。

「ごちそうさまでした!」

そよそよ吹く西風に吹かれ、彼女が作ってくれた弁当を芝生で食べる、こんな贅沢なことがあるだろうか。俺は受験の悩みもしばし忘れていた。

「先輩!」

「ん?なに?」

「この前、先輩がアタシに、初恋はいつ?って聞いたじゃないですか」

「そうだね。事実上、俺が初恋相手って知って、ビックリしたよ」

「今日はアタシが、先輩に色々質問してもいいですか?」

「うん、いいよ。どんなこと、知りたい?」

「あのー、やっぱり先輩の初恋です。先輩が何歳の頃でしたか?」

「やっぱりそうきた?そうだね、熱烈な初恋ってのは、中1の時だよ」

「中1ですか!アタシは全然男の子に興味が無かったなぁ…」

「なんとその初恋相手が、俺にミエハルってアダ名をつけてくれた女子なんだよ」

「へぇ〜。じゃ先輩は、中1の時にミエハルってアダ名が付いて、ずっとそれが生きてるんですね!なんか素敵な話だなぁ…。初恋相手は、アダ名の名付け親だなんて。その初恋は、どうなったんですか?」

裕子は目を輝かせて聞いてきた。やはり女の子だなぁ。

「残念ながら…って結末だったよ」

「ああ…。そうだったんですね。実らなかったんですね…」

「ハハッ、いいんだよ、実らなくても。中1だもん。裕子も悔しがらなくていいんだよ。気持ちはありがたいけど」

「先輩が辛い目に遭われた話を聞くと、アタシも悔しくて…」

裕子はそう言ってくれたが、その言葉を聞くと神戸千賀子にフラレた話、伊野沙織に原因不明で嫌われた話、更に若本に村山との交際を隠されてフラレた話をしたら、裕子はどんな反応をしてしまうか、ちょっと怖くなってしまった。

「その後は、他に好きな女の子とか、出来ましたか?」

「ま、思春期の男子だからね。モテなかったけど、一方的に好きな女子はいたよ」

「先輩、本当にモテなかったんですか?」

「う、うん…」

裕子は俺の顔を覗き込むように、聞いてきた。

「だって先輩って、とっても優しいし、アタシが我儘言っても受け止めてくれるし。それに、アタシのことを先輩に紹介してくれるって言ってた張本人が、先輩のことを好きになって、夏休みは気持ちが落ち着かなくて大変だったんだもん…」

暗に若本のことを指しつつ、実はモテるんじゃないかと聞いてきた。

「もしモテてたら、もう少し俺の高校生活も違ったものになってたよ。誰を好きになってもフラレてばかり。だから自分には恋愛運なんて無いんだって決めてたから。だから、若本から最初に裕子のことを聞いた時も、まさか、って思ってたんだ、実は」

「えー、まさかだなんて…。アタシは去年の体育祭から、ずっと先輩のことが好きでした。もっとアタシが積極的な女だったら、先輩に悲しい思いをさせなくて済んだのかもしれないですね…」

「でもさ、色々あったけど、今は裕子と付き合うことが出来て、良かったって思ってるよ。ありがとう」

「先輩…」

裕子は突然俺の後ろに回り込むと、背後から俺のことをギュッと抱きしめてきた。

「ゆ、裕子…」

「先輩、大好きです!ずっとアタシのそばにいて下さいね」

「う、うん。裕子、大好きだよ」

俺が裕子の方へ向き直そうとしたら、裕子はしばらく俺の広い背中に縋りたいと言って、このままがいいの、と俺の動きを制止した。

(薄着だから裕子の胸が当たる…。胸が無いなんて嘘だろ〜)

もしかしたらブラジャーのカップにパッドを入れているのかもしれないが、確実に俺の背中は、裕子の胸の感覚に全集中していた。

しばらくその体勢でいたが、そろそろ動こうかと思い、裕子に声を掛けた。

「裕子、そろそろ…。あれ?裕子〜」

「…クゥ…」

裕子は眠ってしまっていた。

(可愛いなぁ、寝ちゃったのか。5時半に起きたって言ってたもんなぁ。疲れと西陽のポカポカで眠くなったんだね)

俺は裕子が持ってきていたバッグ2つと、俺のバッグ1つを片手でまとめて持つと、そのまま裕子をおんぶする形で立ち上がり、ゆっくりと電停に向かって歩き出した。

「…クゥ…。スヤスヤ…」

流石に高校2年生の女の子をおんぶしていると、重たい。でも安心して俺の背中で寝てしまった裕子が、愛しかった。

(お尻に触れちゃうのは許してね、裕子…)

やっとのことで、原爆ドーム前電停に着いた。
ベンチに裕子を座らせるように、ゆっくりと降ろした。

その時、スカートがフワリと捲れ、一瞬裕子の穿いていたパンツが見えてしまった。
あちゃーと思ったが、裕子らしい、白に多少何かしらの模様が入っている程度のパンツで、何となくホッとした。

そっとベンチに降ろしたからか、まだ裕子は寝息を立てていたが、しばらく何本か電車を見送りながらその姿を見ていたら、その内ハッと目を覚ました。

「あっ、あれっ?ありゃ?ここは何処ですか?」

「やっと目を覚ましたね。ここはど〜こだ?」

裕子はキョロキョロと周辺を見回した。

「ここって、もしかしたら、広電の電停ですか?」

「そうだよ。裕子がさ、俺の背中が気持ち良かったのか、そのまま寝ちゃったから、おんぶして来たんよ」

「うわーっ、な、なんてお恥ずかしい…。アタシ、寝てました?先輩の背中で?えーっ」

裕子は顔を赤くし、何度もゴメンナサイと繰り返すので、大丈夫だよと、頭をポンポンと2回触った。

「じゃ、次に宮島口行きが来たら、それに乗ろうね」

「はい…。本当にごめんなさい、先輩…。せっかく平和公園まで来たのに、お弁当食べただけなんて…。後は重たいアタシを運ばせてしまって」

「裕子は重たくなかったよ。大丈夫!ただ…」

「えっ?ただ…なんですか?」

「これは俺が謝らなきゃいけないんだけどね、電停のベンチに裕子を座らせた時、あの…、その…、スカートの中が見えちゃってね、あの…」

「も、もしかして、アタシのパンツ、見ちゃいました?」

「…うん。ごめん!」

「パンツか〜、それなら良かったです〜」

「えっ?パンツだよ?見ちゃいかんよね、いくら彼氏でも…」

「アタシ、今日はスカートですから、万一風が強かったりしたら見えちゃうかもしれないじゃないですか。そんな時でも大丈夫なパンツを穿いてきたつもりなので…。でもやっぱり先輩に見られたら、照れちゃいます〜」

裕子は顔を真っ赤にしていた。

等と喋っていたら、どうも反対側の広島駅方面電停から視線を感じる。

誰かに見られているのか?と俺も反対側の電停をジッと眺めていたら…

「あっ!」

俺と相手は、同時に指を差して思わず叫んだ。

「え?誰ですか、先輩?」

<次回へ続く>








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