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言葉と筆と私の先生

"人は言葉でモノを考える。言葉で考えを組み立てる。声に出すと考えがさらに広がる。そして、自分の作った言葉に支配される。言葉はかく面白い"

先週行った『鈴木敏夫とジブリ展』で一番印象に残った言葉。撮影NGだったのでスマホにメモしようとするも、豊かな言葉の多さとメモを待ってくれない人の多さで断念した。けれど多分、こんな風に活字にしたら感動も半分になるだろうなとも思った(半分とは言わないまでもその通りだ)。紙一杯に文字が躍っているからこそ、心に来るものも一層深かったのだろう。

となりのトトロから始まり、魔女の宅急便、千と千尋、もののけ姫……。生まれた時からすでにあってジブリと一緒に育ってきたようなもの。だからこそ、それぞれのシーンの印象深いセリフが、筆によって深みを増して書かれていて、感極まり涙がでそうになったジブリ展。「忘れないようにすべてを脳内にたたきつけておきたい……!」と思ったがしょせん私。最初に感動した言葉さえも忘れて展示も終盤になってしまった。最後の物販で、文章をまとめた本が販売されていたのが唯一の救いだ。

家に帰って本を開き、筆で描かれた文字を見ていると気持ちが高まってきた。1ページ1ページめくるごとに、自分も書きたいという衝動が抑えきれなくなる。焦る気持ちを横目にようやく読み終わり、鈴木さんの文字を筆ペンで臨書し始めた。

最後に臨書をしたのは、高校3年生だっただろうか。当時通っていた書道教室の先生が大好きで、小学2年生から大学入学まで毎週水曜日、ずっと通っていた。当時習っていたピアノも、剣道も、水泳も、中学入学と同時にすべてやめたのだけど、書道教室だけは細々と続けていたのだ。

墨の字を見ていると、先生を思い出す。目が覚めても忘れられない夢の話をしたり、色のもつパワーの話をしたり、人は亡くなったらどこに行くのか、何になるのかなど、目には見えないよくわからないことを先生と一緒に話すのが大好きだった。そういえば、教室に置いてあった般若心経の絵本を大声で音読していたこともある。今でも現実離れした話が好きで、仏教の教えや修行に興味深々なのは、6畳の書道教室から始まったことなのかもしれない。

一生懸命見ながら書いているのに、全然同じような字が書けない。鈴木さんの文字をずっと見てしまうと、自分が書いている文字のバランスが取れなくなり、偏と旁が崩壊してしまった。書くスピードも全然違う。普段はボールペンでサラサラと書いてしまうので、1文字1文字をじっくり、どこが跳ねてどこでこすれて、なんて考えながら書いていたらもどがしくなった。無意識のうちに私は、「文字の形」をまったく気にしないで書くようになっていたのだ。

どんなに見ながら書いていても、これはどう見たって自分の字だ。時間をかけて書くことに慣れなかったからか、強弱もない、ボールペンで書いたのと同じような文字が生まれてしまった。

もう1回、挑戦だ。それを何度か繰り返した。

そうしていると、少しずつゆっくり書けるようになってきた。鈴木さんの字はどの部分が太くて、書き方はどうなっていて、かすれている場所はどこか。ハネ、トメにはじまり太さ、書き順を意識し始める。中学生から臨書を始め、先生に言われてきたことが無意識のうちによみがえってきたのかもしれない。

勢いをつけたり、少し休んでからまた筆を進めたり。書く時は常に全力じゃなくても、総合的なバランスの良さがその文字の魅力になっている。

書道の先生に最後に会ったのは2014年の1月2日。社会人3年目を終える頃、先生と話がしたくなり、突然訪問した。この日は毎年、書初めで新年のあいさつに訪れていた日。

全然変わらない先生と再会し、安心して、書初めとこれまでの話をして帰った。毎年行きたいなと思っていたけれど、なんだかんだ行けずにその年が最後になっている。

本当は今年の1月2日に行こうと思っていた。この5年で私は引越しや転職もしたし、家族も色々と節目を迎えていたから、先生へ報告に行きたくなったのだ。けれど、連絡を取ることをやめてしまった。

この5年間の家族を振り返ると、祖母が亡くなり、ふと見た時の母が一回り小さくなってきた期間でもある。先生は祖母と母のちょうど間くらい。多分70歳くらいにはなっているはず。小さいころから変わらなかった先生が、母みたいに小さく見えてしまったらどうしよう。もう、会えなかったらどうしようと、連絡を取りたいような、取りたくないような、どっちにも動けなくなってしまったのだ。

親族が無くなるたびに「仕方ないよね、順番だもの」と、母はよく言う。祖母が亡くなった時も、祖父母の兄妹が旅立ってしまった時も、少しうつむいてつぶやく。先生に電話ができなくて諦めてしまった時、私はその"順番"から、まだ目を背けたいのかもしれないな、と思った。

"人生は単なる空騒ぎ"

2回、書いてみた。

"色即是空"

最初は鈴木さんの字を真似して、次は自分の字で書いてみた。

どんな字を何回書いてみても、そこで必ず、先生を思い出した。順番を怖がって行動しないなんて、それで私は良いのだろうか。


来年の1月2日まで待つか。それとも来月会いに行ってしまおうか。引き続き臨書しながら、思い出とこれからを整理していこうと思う。


去年の毎日note


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