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開催レポート「日本神話の植物で正月飾りを束ねる会」

昨年末(2023年)の12月23日(土)にお正月飾りを束ねるワークショップを開催しました。

遠いところまでお越しいただき、ご参加くださった皆さまには改めて御礼申し上げます。

今回は、季節の流れが陰から陽に転ずる季節(冬至前後)のエネルギーが凝縮されている植物の青々しさ、みずみずしさ、力強さなどを感じることで、新たな年を迎えていただきたいと思い、準備を進めていきました。


「お正月」というと、皆さまにとってどのようなイベント、行事、歳時でしょうか。

年末年始のお休みを利用して海外旅行やスキー旅行に行かれる方もいらっしゃるでしょう。家族や親しい人たちとともに、あるいはひとりでゆっくりとおいしいものを食べながら一年の頑張りを労い、新たな年に備えるといった方も多いのではないでしょうか。

現代のお正月の過ごし方、在り方はさまざまですが、それでも日本人にとっては年内で最も大きなイベント、特別な行事、歳時だと思います。

改めて「正月とはなんぞや?」をかなり単純化していうと、「歳神様」をお迎えして祀り、新たな農作物の豊作を祈願する祭礼と考えられています。大掃除によって家屋や身辺を清浄に整え、しめ縄で結界された神棚を設け、餅を供える。玄関や門に松などの植物を飾るのといった一連の行為は、歳神様を迎え祀る準備なのです。(※)

そして深夜もしくは早朝に歳神様が降臨すると、特別な料理を供えて歓待します。これがお節料理です。あくまでも歳神様に捧げるものであり、私たちはそのおこぼれをいただくという感覚です。昔は正月に晴れ着を着る人が多かったと思いますが、これも神様を歓待するための正装だと考えられています。

民俗学の研究によると、歳神様とは、穀物に宿る精霊のひとつ稲霊(いなだま)が神格化されたことによる田の神、死者や先祖が神格化されたことで生まれた先祖神、そして無病息災、家内安全などの願いによって生活を守護する神が混じり合ってできた神と考えられています。ただし、地域や地域が主とする産業などによって歳神様とは言わない、あるいはその性質なども異なるようです。(※)

この歳神様と日本神話の神々は異なりますが、日本神話に登場する植物には、姿形から邪気を払いその場を清める力があるものや、新たな生命、長命を寿ぐものとして、正月飾りに用いられているものもあります。また松をはじめとする常緑の巨木、古木には神が宿ると考えられています。

そのような植物をお正月飾りとして束ねることは、歳神様を迎え祀ることにも適うと考え、今回のワークショップで用いることにしました。

メインの植物としたひかげのかずらは、ここ数年、ある神社に納めているものであり、普段の生活では目にすることもない植物であるため、ぜひこの機会に触れていただきたいとい思い、数々の植物を用意しました。

参加者みなさまの作品

ひかげのかずらの長さを生かして、紅白水引をモダンに
ひかげのかずらのふんわりした雰囲気を生かし、南天の赤い葉を陰影に
主宰者による手解きのデモンストレーションにて

ご参加くださった皆さまが、ご自宅に戻って飾られると、部屋の空気がきりっと引き締まったとのご感想をお寄せくださいました。邪気を祓い、その場を整える植物の力を感じていただき、とても嬉しかったです。

当日の花材

<日本神話の植物>
ひかげのかずら
· 日本神話では、アマテラスが天岩屋戸に隠れてしまったとき、アメノウズメが長く青々としたヒカゲノカズラを襷掛けにして大地を踏みならし、アマテラスを招き出したと言われている神聖な植物です。
· 冬枯れのこの季節でも青々とし、長いつる状ものであることから、新たな生命、長寿を祈るものとして正月飾りに使われます。関西方面では「蓬莱掛け」「掛け蓬莱」という名で有名です。

椿
· 『日本書紀』では椿で槌をつくり、それで土蜘蛛族を退治したという話しがあります。椿に霊力があるためと考えられています。


· 常緑高木。高く直立するさまは、古くから神木・霊木と認識されました。『日本書紀』ではスサノヲのヒゲから成ったとされています。神社では浄めの手水場に置かれていることもあります。


· 常緑樹で枯れない、樹齢が長いことから、古来、神聖な樹木として考えられてきました。正月、歳神様が降臨するための目印となります。
· 『常陸国風土記』では天より立速男命が降臨して、その祟りが甚だしかったと伝えられています。

<縁起物>
南天・南天の葉
· 魔除けや火災除けの効果があると言われ、「なんてん」という音から「難を転ずる」という縁起物として、お正月飾りに使われます。

桐の実
· 古来中国では鳳凰(徳のある優れた王が即位すると現れる瑞兆)が宿る木として、神聖視されていました。平安時代より天皇の衣類や調度品に桐や鳳凰の紋様が使われ、桐花紋は菊紋に次ぐ格式ある紋とされました。

飯桐の実
· 木の姿(成長が早く大木で葉が大きい)が桐に似ていること、大きな葉が昔、飯を包むのに使われたことから、「いいぎり」と名付けられたと言われています。
· 実は南天に似ていることから、いいぎりなんてんとも呼ばれます。

*  *  *

最後となりますが、生産者の方々が丹精込めて育てた植物たちが、多くの方々の手を経て、この日に届けられたことに感謝しております。

前回開催と同様に、開催にあたりご指導、花材の相談にのってくださったお稽古の先生には、多くのわがままと無理を申し上げ、生命力あふれる輝く植物をご用意いただきました。そのお心遣いに改めて感謝申し上げます。

また会場をお貸しくださったコミュニティスペースの方々にも御礼申し上げます。


※パラグラフ内の正月と歳神様については以下の書籍を参考としました。


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