私という輪郭を明確にしてくれる小説/吉本ばなな「キッチン」
揚げ物をしている時の、次々に浮かんでは消えていく小さな泡と、カラカラという小気味いい規則的な音。微塵切りの爽快感。洗い終わった後に並べられている皿達の秩序。そういうものを五感を駆使して体内に摂取すると、気持ちが落ち着いてくる。ピカピカに磨きあげたコンロやシンクを見ると、私自身の存在を許されたような安心感を感じる。
私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う。
そういうわけなので、みかげが台所が一番好きな場所だと語るこの一文から始まる物語が私の心を一瞬で掴んだのは、必然だ