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フランスで同性カップルが妊活はじめます【妊活1】

「こども、ほしいね」

東京にいたときも、仕事で日中家にいない時間が長かった。
フランスに来てからも、1年目はまだフランスの学習方法になれていないこともあり、しょっしゅう図書館にこもって勉強をしていた。

外出から帰ってきた私に対して、彼女はよくこう言った。

「こども、じゃあつくろっか」

子どもを持つことについて、話したのはこれが初めてではない。

東京にいたときから、
「子どもほしい?」
「ほしい!」
という会話を何度となくしてきた。

「どんな子が生まれてくるかな」
「のあに似ている子がいいなぁ」
「私はいや。自分に似てほしくない」
「えーいいじゃん。のあにそっくりな『チビのあ』が生まれてほしい。」
「えーなんで」
「そんで、のあと同じことしてたら『お母さんと同じことしてるね』って言うんだ。きっとその子も、のあと一緒で「そうかな?」って素直に認めない」
「本当に思ってないから認めないんだよ。」
「でたでた。」
「それをいうなら、みどとそっくりで忘れん坊な子もいいんじゃない」
「ひー!やり返してくる、この女!」
「みどみたいな子かわいいなー」
「私みたいな子、いつだって理由求めてくるから大変だよ。すぐ屁理屈こねるし」
「それは困るな。大変そう。」
「でも素直」
「それはいいね」

そんな妄想をしながら、フランスに来てから2年目の冬ももうそろそろ終わろうとしている。
基本10度前後だが、温暖化の影響もあり、先日の気温は20度を超えた。
これから三寒四温を経て春が来て、日差しがじりじりと照りつける夏が来たら、東京に帰る。

「はー!やっと日本に帰れるぅー!!」
あと数ヶ月で日本に帰れるんだという話をした際、彼女は両手を挙げて絵に描いたような「大喜び」を表現した。
喧嘩をしたり不満がある時には、『私は自分で選んでフランスに来た訳じゃない』と言い放つこの人、動画にも滲み出ていると思うが、日本に帰れる日を指折り待っている。

(とはいえ、本当に来てくれてありがとう、と思っています。
留学の条件上一度も帰国が許されない中での、慣れない環境、慣習、言語での生活、本当にお疲れ様でした。)

「帰る日が近づいてきたら、ぼちぼち家も探さないとね」
「帰ったらすぐに妊活始めよう!」
「ね。家とか色々落ち着いたら始めようね」

部屋でごろごろしながら、帰国後のことを話していた時だった。

「は。待って」

がばっと身を起こして、大きな目をこちらに向ける彼女。

「帰国する前に妊活始められないのかな?」

言われてみれば、と私も身を起こす。

「フランスで妊活するのありじゃない?」

フランスで妊活しない理由は何かあったっけ、と思考を巡らせる。

「精子バンクも日本よりヨーロッパの方が近いんじゃない?」

「えっ見て、ほら。フランスだと人工授精できるかも」

彼女の方に目を向ける。

「…フランスで妊活するの、ありかも。」

帰国前に妊活を始めよう、という彼女の提案には一理ある。
というか、色々素人ながらに調べたところ、以下のとおり六理くらいある。

1) 年齢との関係での確率論の観点から、両パートナーが子ども持ちたくて、環境もそろっているなら早く始めた方がいい。

2) 日本だと法的に医療機関で人工授精を同性カップルに行うことが認められていないが、フランスは認められている(シングル女性も可)。
=> 人工授精は子宮内に精液を直接注入するので、日本で主に同性カップル間で実施されていると思われるシリンジ法よりも、「子宮内に入る」というハードルが一つ除外されるという意味で、単純にシリンジ法より妊娠率が高いと思われる。

3) 2) の結果、凍結輸入精液を使用した人工授精の手順等に慣れた医師が見つかりやすい。
=> 仮に日本で法整備が進んだとしても、技術面で現場が追いつくのはもう少し先か、いたとしても非常に限られた人数と予想される。

4) 人工授精に至るまでに要する費用が外国人向け保険で100%カバーできる。

5) 日本よりヨーロッパ向け発送の方が、液体窒素タンク内での精子保管期間が長い。

6) 5) に加え、発送期間も短くて済む。


ここから色々と進んだこの記事を書いている現時点からすると、3)、 5)、 6)が実際にはめちゃくちゃありがたく、大事だったりする。

後の記事で言及する予定だが、いくらフランスの法律が同性カップルへの輸入精液の人工授精を認めているとはいえ、技術的にできる医師、できない医師がいる。
このうち、「できる」と言っている医師の中でも、輸入凍結精液での人工授精の経験が豊かな医師と経験があまりないか未経験の医師がいる。
もちろん、輸入凍結精液での人工授精の経験が豊かな医師の方が円滑に進む。
異国での妊活において、「円滑」ほど重要なものはない。
「円滑」でないことによって、限られたチャンスを逃すリスクもあるからだ。

また、これも後の記事で言及することになると思うが、薬等によるコントロールがあるとはいえ、ある程度日数的に近くならないと正確な排卵日はわからない。
そのため、現時点での感覚では、精子の注文は「来週人工授精します」という状況か配送がギリ間に合う2、3日前にならないと、実際注文するのはリスクが懸念される。


「よし!そうと決まれば、病院探しとかどんどんできることは早めに始めよう!」
「わーい!始めよう始めよう!」


こんなふうにして、私たちの妊活が幕を開けた。
言語も不自由で文化も異なるフランスという異国で。

ありがとうございます☺︎