見出し画像

80.令和のいだてん(1)

第96回箱根駅伝予選会、まもなくスタート。
各大学の並び順は下記のとおりである。

引用:関東学生陸上競技連盟HPより

スタートラインに向かって垂直に、各大学ごとに1列に並ぶ。
出走する12人の選手の並びは、基本的に実力順である。箱根駅伝予選会は全チームの全選手が一斉にスタートする。後方スタートだと周りの人が障害になって、自分の想定したペースで走れない可能性があるので、強い選手を前に置くのが定石だ。

私は、Twitterに上がっていた、選手たちの写真を思い出していた。

いい写真だった。
2枚目中央に立つ、たった一人の4年生、金丸くんの笑顔がまぶしかった。

筑波大学の先頭は金丸。以下、猿橋、西、相馬、川瀬…と続いて並んでいた(後にVTRで確認したもので、当日はスタートラインが観戦場所から遠かったため把握できていない)。
この5人に加えて、児玉、杉山の7名が予選会経験者。残りの5名(山下、伊藤、山本、岩佐、小林)が初出場だ。
カギになるのは初出場の5人。彼らがどれくらいのタイムで滑り込めるか。

各チームとも、様々な状況を想定して作戦を立てている。とくに「集団走」がポイントになる。
以前にも説明したように、長距離走は、集団で走ることでお互いの負担が減り、全員がよいパフォーマンスを維持しやすくなる、という特徴がある。
エース級の選手は別として(こうした選手は、他大学の似た実力値の選手たちと集団走をする戦法をとる)、各大学とも集団走のペース配分(単位距離あたり何秒で走るか)など、事前に入念なシミュレーションを行っている。

9月末に開催された筑波大記録突破会での彼らの走りから、私は、筑波大学は第1グループと第2グループの2集団に分かれて走るのではないかと予想していた。
実力的に初出場の5名は第2グループになるが、未経験者だけで集団走をさせるのはリスクが高い。グループをまとめる柱が必要だ。

児玉くん。

過去2年間予選会を走っている児玉くんが、第2グループのキーマンだ。彼の経験値と、「チャラい」けれどがむしゃらなキャラクターが、集団走にポジティブな力を与えてくれるはず。

乾いた号砲が立川駐屯地内に響いた。

ハッ、と我に返った。
大歓声が沸きあがる。各大学の応援団も一斉に応援を再開した。
ついに、21.0975kmの戦いが始まった。

コース図を紹介する。

スタート地点から私が陣取った場所まで、周回コースを3分の2ほど走ってくる。スタートから約2キロの地点だ。
左手方向から選手たちがやってきた。
先頭は留学生の集団、それを追うように日本人のトップランナー十数名が続く。その次の大集団の先頭付近に、金丸くんの姿が見えた。
いい位置取りだ!調子よさそう!!!
猿橋くんと西くんも続いている。
その少し後方、集団の外側に小柄な姿が見えた。相馬くんもいる。
川瀬くんも確認できた。

おそらく、ここまでが筑波大の上位グループ構成メンバー。
後の選手たちは(私の妄想が当たっていれば)集団走で来るはず。
500人の選手が走っているから探すのも容易ではない。大集団の中盤あたりで背の高い杉山くんを発見した。その周辺に、筑波大の他の選手たちも走っている。予想通りうまく集団で走れているようだ。

2周回めは、さらに集団が縦長になってきた。
金丸、猿橋、西の3人は依然、大集団の先頭付近で走っている。思っていたより前の位置取りだ。飛ばしすぎでは?いや、全体のペースが遅いのかもしれない。
数秒後に相馬、川瀬が続く。前の3人についていかないことにしたようだ。この二人は経験豊富だ。おそらく、自分のペースをつかんで他大学の選手たちと走っていくだろう。
声援を送ろうと思っていたが、探すのに必死でそれどころではなかった。そもそも、幅数十メートルもある滑走路の向こう端を走っているから、叫んでも届かない。それに、周りの歓声がとにかくすごくて、自分の声も聞き取れない。

3周めは途中から周回コースを外れ、公道へ出ていくことになる。
2周まで観戦した後、駐屯地と公園とをつなぐ臨時出入口のほうへ歩き出した。他の観客たちもぞろぞろと移動し始めている。
昭和記念公園内でもう一度応援しよう。
今回も昭島口付近で応援しようと決めていた。残り5kmのあたりだ。過去2回とも、その場所から応援していた。
今いる場所から、昭島口までは約1km。普通に歩けば15分くらいで着く。

ところが、数十メートルもいかないうちに、前を歩いている人たちが立ち止まり始めた。
んん?どうしたのかな。

しばらく待つが、一向に動く気配がない。
群衆の先、右奥のほうから左へ大きい車が移動している。

あっ!!!

先頭中継車両…!!!

私は、周回コースと公道に出ていく道路の間の芝生エリアにいた。
いま、選手たちは周回コースをはずれ、公道に出ていこうとしていて、その道が私たちの前を横切っている。

つまり、選手たちが全員公道へ出ていくまで、私たちはその道路を渡ることができないのだ。
ま、マジ!?

あせって、時計を見ながら時間を計算する。
最後尾の選手が出ていくまで20分くらいかかる。
そこから昭島口まで15分。この群衆だから思うように移動できないかもしれない。
速い選手だと、15キロまで40分くらいでやってきてしまう。
ファーーーーー!!!
昭島口まで自分の足で間に合うのか!!!???

一瞬、もう少し近くで応援することも考えた。
だが、それはできない。
なぜなら、弘山さんに伝えてしまっていたからだ。


うっしー、大ピーーーンチ!!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?