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81.令和のいだてん(2)

選手たちが昭島口に到達する前に、何としてもたどり着かねば。
選手たちの通過を待つ大群衆の後方で、深呼吸して自分に言い聞かせる。大丈夫、余裕はないが計算上は間に合うはず。

少し落ち着いたところで思い出した。
「そうだ、keikaさんが待ってるんだった!」
当日、関東エリアではテレビやラジオで箱根駅伝予選会の実況放送がされていた。しかし、一緒に筑波大を応援してくれている「やばすぎるネットフレンズ」の一人、鉛筆画家のkeikaさんが住んでいる広島では放映されていない。だから、現地の様子を教えてね、と頼まれていたのだ。

携帯を取り出して文章を打ち始めたところで、群衆の前の方が動きだす気配がした。慌てて顔をあげ、前の人について移動を始める。
気は急くが、人が多くて思うように進めない。じりじりしながら昭和記念公園との境目までたどり着いた。

公園に入ると、群衆はばらけた。駐屯地に近い、折り返し地点のあるあたりを目指す人は左手に、ゴール方面に向かう人は右手の駐屯地沿いに進んでいく。私は右手に出てそのまま直進、東西に流れる小川を目指す。
ようやく他の観客の迷惑にならないところまで抜け出てきたので、携帯を取り出してTwitterに打ち込んだ。

タイミングはちょっとずれちゃったけど、伝わったかな。
再び歩きだす。クラファンTシャツの下に長袖Tシャツを重ね着してきたが、汗ばんできた。脱いでしまいたいがそんな余裕はない。10月も終わろうというのに、あまりに暑すぎないか?それに昨日は雨だったから湿度も高い。公園内の植物の草いきれがすごい。
選手たちは、この過酷な環境とも戦わなければならないのか。
歩きながらまたTwitterに打ち込む。

思い浮かんだ言葉を打ち込んだけれど、そもそも陸上シロートの私が、消耗戦なる戦いがどんなものか知る由もない。

舗装されていない小道は、ところどころぬかるんでいた。よけながら歩いていると思うようにスピードが出ない。途中から、状態のよさそうなところは小走りして距離を稼ぐことにする。息が上がってきた。ヤバい、運動不足すぎる。まさかこんなことになろうとは。もはや、携帯を見ている余裕なんて1ミリもない。
当初の思惑では、移動しながらradiko(ネット上で聞けるラジオ)で実況を聞いたり、いつもネット実況してくれているフォロワーさんのtweetを漁ってレースの状況を確認する予定だった。3回めの現地応援だから、それくらいの余裕はあるだろうと思っていたのに。

昭島口付近のコース沿道にたどり着いたのは、10時15分を回った頃だった。
よかった、まだ来てない!!間に合った!!!
息を整えながら、応援場所を物色する。幸い、ゴールから遠いこともあって一般の観客は多くない。幟を持った学生さんたちやカメラを持った方の邪魔にならない場所に陣取った。ここは長い直線区間なので、かなり手前から選手たちを確認することができる。
リュックから、はこねえきでん手ぬぐいを被った「いだてんまぁる」を取り出す。キミももう3回目の参戦だ。しっかり応援するんだぞ!!!
せっかくなので記念撮影しようと携帯を準備していると、コースの先がざわつきはじめた。
まさか?もう来たってか!?

先導車の姿が見えた。

心臓が飛び跳ねた。
車両の姿がみるみる大きくなる。その後ろに、選手たちが走ってきている。
レース展開はどうなっているの?筑波大学はどれくらいの位置にいるの?
結局、何も情報を得られないまま、いだてんまぁるを胸にしっかと抱き、選手たちを待ち構える。不安しかない。
とにかく、筑波大学の選手たちを見逃さないようにだけはしないと。そして、全員の名前を呼んで応援するのだ!


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