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世代間がつながる場、「地域の縁側」を目指して

こんばんは!久々の投稿になります。

 今回は日本医業経営コンサルタント協会の機関誌JAHMC 2019年11月号に寄稿させていただいた文章に、少し加筆しつつ、掲載させていただきたいと思います!

アンダンチとは?

 2018 年 7 月、仙台市若林区内に「アンダンチ」 をオープンした。名前の由来は「あなたの家」を指す「あんだんち」という仙台の方言。

 アンダンチは、約1,000坪の敷地内にサービス付き高齢者向け住宅「アンダンチレジデンス」(以下、サ高住)をはじめ、看護小規模多機能型居宅介護「HOC カンタキ」(以下、カンタキ)、障害者就労継続支援B型事業所「アスノバ」、企業主導型保育園「アンダンチ保育園」、レストラン「寝かせ玄米と日本のいいもの いろは」(以下、いろは)を併設した多世代交流複合施設である。レジデンスの入口には駄菓子屋「福のや」を配置し、敷地中心にある庭には2頭のヤギがいる小屋もあり、近所の子どもたちが気軽に遊びに来てくれる場所にもなりつつある。

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左手がアスノバ、右手が1Fがいろは、2Fがアンダンチ保育園

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左手がHOCカンタキ、右手がアンダンチレジデンス

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アンダンチの成り立ち

 当法人はまず2015年7月に、介護事業として小規模多機能ホーム福ちゃんの家を開所。小規模多機能型居宅介護(以下、小多機)は、通所・訪問・泊まり・ケアマネジメントのサービスをワンストップで提供できるため、ご本人やご家族にとって非常に良いものだと考えて選んだ。実践を通じて暮らしを支えるための「伴走者」としてのやりがいを感じ、事業化を進めた。開所当初、運営は厳しかったが、理想を決して下げずに、「いかにして、その人の暮らしに寄り添い切れるか」を考え続け、スタッフと共に取り組んでいる。

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小規模多機能ホーム福ちゃんの家 外観(アンダンチへは、車で5分ほど)

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 2018年の夏祭りの様子。最近は福ちゃんの家でも駄菓子屋オープン!

 小多機を運営すると、ご家族や病院の連携室からの「住まい」のニーズに直面した。小多機は自宅での暮らしを支えることに主眼を置いており、住まいそのもののニーズには簡単には応えられないため、住まいの事業化も進めることにした。実は、小多機の開所前から、医療的ケアが必要になった高齢者の「今までの暮らしを続けたい」との思いに応えるために、小多機に訪問看護を加えた看護小規模多機能サービスの事業化を見据えていたのだ。

  併せて「暮らしの保健室」のような気軽に医療介護の相談ができる場所も作りたいと考えていた。一般の方が気軽に訪れるようにするためには、飲食店と組み合わせるのがよく、食事からライフスタイルの提案をしたり、アイドルタイムには医療介護、食育などの講座を行うこともできる。住民が情報に触れる機会を増やすことで、医療介護に対するリテラシーの向上にも寄与できるのではないかと考えた。
 この2つの事業を同時に進めていたが、幸か不幸か、どちらも良い物件には出合えずにいると、土地区画整理事業地の1,000坪の土地と巡り合えたのである。2つの事業を1つに合わせ、さらに働きやすさと日常的な多世代交流を促すための保育園を加えたものが、「アンダンチ」の原型であり、成り立ちである。

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土地区画整理事業地として造成。周辺住宅街とともにできました。

アンダンチの展開に込める思い

 赤ちゃんからお年寄りまで、障がいがあろうがなかろうが、それぞれの役割の中で、無理のない形で、日本の文化を伝えていけるようなまちづくりができないだろうか。そのような課題認識の下、プロジェクトを進めている。

 「介護」を深く考えていくと、その方の生活や暮らしと密接に関わっていることに気付く。暮らしが成立するには、ご近所さんや町内会、スーパーなど、その地域を知る必要がある。さらにその暮らしをより良くするためには、「地域全体を考える必要性がある」と自分の中で整理することができた。「少しでも安心して暮らせる地域をつくるための福祉的視点」、そこに地域の社会的課題が見え隠れしており、その課題解決のためのアプローチは、ビジネスチャンスにもなり得る。

 また、多くの高齢者やご家族と接する中で「家族でなければならない部分は多いが、もっとサービスや地域でのサポートを取り入れながら、楽しく幸せに過ごせないだろうか?」という疑問が湧き、地域をエンパワーメントしながら、自然な関わりから生まれるサポートの形を模索している。いわゆる互助の関係性だ。周知のとおり、介護人材の不足は避けられない事実としてあり、地域コミュニティの協力は不可欠だ。その地域のサポートをどのようにつなぎ合わせ取り入れ ていけるかを、介護事業者として真剣に考えな くてはならない。そのためにも地域と施設との動線を地域性や立地などの複数要素を加味し、デザインする必要がある。

行き場所づくりと使い方の余白

 アンダンチは建物やその内装はもちろんだが、ランドスケープ(景観)の重要性を大切にしている。福祉にはもっとデザインが必要だ。そのデザインにより、福祉とは縁遠い人たちが、その見えないハードルを越えて、見聞きする機会を手にする。誰もがふらっと散歩がてら来てもいい雰囲気、それを醸成する要素としてデザインは欠かせない。その点においては、まずは成功しているといえるかもしれない。

 このような「場」を持ったことで、地域の声が聞けるようになったからだ。その地域の声とは、小中学生だったり、子育て中の母親だったり、独居の高齢者だったりする。気軽にふらっと立ち寄れる「行き場所」が求められていると、現時点での私は 感じている。 

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 多くの人が「気軽に行け、使える場所」を探しているとしたら、どのように「行き場所」を作り上げるか。その需要を満たす要素を、福祉施設はすでに持ち合わせている。よく考えていただきたい。自社の施設で、使っていない空間・ 時間は存在していないか?そのもったいない空間・時間を地域に開放するだけで多様な人が集まってくる、可能性を内在している。 

 アンダンチレジデンスは、高齢者向けの住居ではあるが、高齢者“ だけ ”の暮らしにはしない、そして建物完結型の施設にはしない、という理想を掲げている。建物完結型にしないためにも、デイサービスは併設せず、必要に応じて入居高齢者が自分に適した外部のデイサービスを選んで利用されている。したがって、共有リビング(いわゆる食堂)では、上述のようなもったいない空間・時間が存在する。そこを暮らしの保健室の活動や子育てサークル、親子英会話教室、短時間フィットネス等に無償で使ってもらっている。興味のある入居者の参加も見られ(参加費は優遇)、新たなコミュニティの創出にもつながる。結果的に、デイサービスのような機能を有した多世代の集いの場となりつつある。 

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子育てサークルは、アンダンチ、福ちゃんの家でも月1回程度開催している。

 地域の子どもたちや独居高齢者など、孤食防止のための子ども食堂「だんらんちキッチン」と名付けた、団欒するランチ会も始めた。区役所からの情報などから、地域の3歳児や小学生の肥満児率が高く、その親世代も食に対しての問題意識が希薄だとの結果を知った。これは医療 介護における予防の観点からも新たな社会課題であり、子ども食堂に食育の要素も加えることにした。もちろん入居者さんには買い出しや料理も手伝っていただき、そこにボランティアも加わり、交流と役割づくりの場にもなっている。

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入居者さんもだんらんちキッチンの調理に参加

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2019年8月31日の記念すべき1回目は多世代交流味噌作りをしました!

 アンダンチは複合施設ゆえ、空いている時間や場所が多く存在する。建物の使い方を特にルー ル化せず、利用の仕方を自らが考え出せる “ 余白 ” を残している。利用希望者の提案は、「まずはやってみましょう」と基本的に受け入れている。そういう口コミや印象が広がっていくと、“ 場所 ”を求めている人たちの声が自然と集まって来るようになる。 

 一般的に、福祉には関わりが薄く、言わば他人事である人のほうが多数である。福祉施設を気軽に利用してもらい、興味関心を少しでも抱いてもらうことが、福祉を自分事として捉えるきっかけになるはずだ。それが「知らない」がために抱いてしまう介護や障がいに対する固定観念や偏見を切り崩すきっかけになり得るのではないか。その先に「多様性を尊重し合える社会」があると考えている。そのような思いもあり、建物完結型にせず福祉施設と地域との接点となる賑わいづくりに取り組んでいる。

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2018年8月開催の「縁日」の様子

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2018年12月開催のクリスマスマーケット

相互補完的な収支構造へ

 アンダンチの事業の中心はサ高住(50 部屋 54 名定員)であるが、レストラン「いろは」にはテナントとして入ってもらいテナント料を、カンタキには土地賃貸借をしており、その賃料を得る形を取っている。いろはには、アンダンチ内の全事業所の給食業務を引き受けてもらっている。事業所の稼働が上がれば、昼食で120食程度がアンダンチの事業所向けに提供されることになり、一般のお客様が食事された分が利益につながるモデルとなっている。飲食店としても収益見込みが立ちやすく、いろはのような良質な飲食店出店の可能性は広がる。実際、いろはを目当てに訪れ、そしてアンダンチを知るという方も少なくない。

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寝かせ玄米と日本のいいもの いろは 仙台アンダンチ店

 限りある社会保障費の中で、社会福祉事業における収益確保は、正直容易ではない。収益性と人材確保の両輪をバランスさせなければならない。加えて人口減少社会においては、複数の相互補完的な事業を組み合わせて、上手に収縮していく必要性もあると考えている。働き手にとって、介護や障がい者・児の事業に、会社を辞めることなく、異動でキャリア形成・スキルアップができるような仕組みは、長く働くことのできる企業として考えるべきではないか。あるいは、福祉職として培ったコミュニケーション能力やホスピタリティを生かせる、保険制度に頼らない事業展開も魅力的だ。

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アンダンチからは車で10分ほどの距離に地域に足りない障害児向け放課後等デイサービス アスノバを2019年4月に荒井東にオープン!

目指すべきゴールとチャレンジ

 少子高齢化が進み多死時代を迎える日本において、様々な状況の人が楽しく幸せに豊かに過ごして最期を迎えることができる社会を創ることが、高齢者のみならず、今の子ども世代にとっても非常に重要であると考えている。アンダンチレジデンスでは、要支援から介護度が重い方まで入居しており、すでに看取りも行った。医療体制も整っているため、入居者側もスタッフ側も安心できる体制にある。かつて日本でも自宅で看取っていた時のように、子どもたちにも「死」を感じる機会が必要であろう。それが多死社会を生きる子どもたちには最大の教えとなり、より良く自分の人生を生きようと考えるきっかけにもなるはずだ。 

 様々な状況の人が幸せに過ごせる場、世代がしっかりとつながっていく場を創り出し、一人ひとりが心地よいと感じる「地域の縁側」を目指し、そして多様性を認め合える地域づくりに貢献したいと強く思っている。

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    あまり撮らない集合写真を。  (photo by Yusuke Abe)


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