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【短篇小説】蘇る人形【怪奇ショートストーリー】

男は白い首筋に通る青い血管を、
すーっと2本の指でなぞって。
くりっとしたアーモンドのような造形の
ビー玉の入った瞳の黒目の部分を見つめた。
まつ毛の細部の部分も美しい。
半開きの紅の通った小さな唇。
手首は細く強く掴むと折れそうだ。
裸の人形。サイズは人間の等身大。

『人形を動かすには命を吹きかけてください。』と、紙一枚に書いてある。

男は人形に惚れた。どうしてもこの美しい人形に命を吹きかけて動かしたくなった。
綺麗な身体が冷えないように、男はアンティークの洋服屋で仕立てのいい洋装や下着を購入して人形に着せた。髪の毛は母親の使っていた櫛と椿の油を使い丁寧にとき、母親の髪留めを使い束ねた。床に横たわらせておくのが可哀想で母親が使っていたドレッサーの椅子に鏡と対面させて座らせた。名前もつけた。母親と同じ名前の「桐子」である。

男には妻がいた。名前は「綾香」である。綾香は夫が人間と同じ大きさの西洋人形に惚れ込み、名前を男の母親の「桐子」とし、毎日かかさず髪に櫛を通しドレッサーの鏡越しに言葉を投げかける姿が不気味だと感じていた。日ごとに増えていく人形専用の衣服と下着。綾香が洗おうとすると、男は血相を変えて「触るな」と怒った。その様子に綾香は狂気を感じるしかなく、人形が家に来て以来すっかり男は変わってしまった。綾香と目をあまり合わせようともしなくなり、話しかけてもどこか上の空なのだ。綾香は心を病み、町の医師のところに行き事情を説明してほろほろと泣いた。町の医師は「小生には専門外の相談だ。それでも奥さん。貴方の話を聞くと哀れに感じどうしたものか。」と言い、綾香を抱きしめた。「またいつでも苦しくなったら小生のところに来なさい。」町の医師と綾香はそんな風に男と女の関係となった。

綾香は最初は月に一度だったが。それが二週間に一度と頻度が短くなり、町の医師との逢い引きの回数が増えていった。「綾香。おまえの夫は今も人形の虜なのか?」町の医師は聞いた。綾香は深刻そうな顔をして答えた。「えぇ。毎日人形に話しかけてとても不気味だわ。」町の医師はそんな綾香にある提案をした。「その人形に小生が命をふきこんでみせよう。人形が人間のように生き物になれば、綾香の夫も報われる。夫には生きる人形と一生一緒に住んでもらえばいい。綾香はそんな男やめて、小生の正式な女にならんか。」綾香は町の医師の提案にひどく驚いたが気持ちは病み疲れ果てていたので「そうね。貴方に人形の件任せてみようかしら。」と言い約束の日を決めた。

約束の日とは綾香の夫の不在の日になった。綾香の夫の不在の日に町の医師は綾香とともに家にあるドレッサーに座る「桐子」と名付けられた人形に命をふきこみに侵入した。町の医師は大きなトランクのケースから様々な手術道具を取り出した。そしてホルマリンにつけられた人間の様々な臓器の瓶。町の医師は「桐子」を浴室に移動させ服を脱がせ横たわらせ、ハサミをつかい人形の身体を裂いて正しい場所にホルマリンの臓器を挿入し針と糸を使い器用に縫合していった。そのお手並みは見事な物で、綾香は息を飲んだ。「よし。出来た。」町の医師は半日以上かけて手術を終わらせた。「綾香。人形はドレッサーに座らせて戻しておくから。夫が帰ってきても今日の出来事は秘密にしておくのだぞ。」そう言って町の医師は綾香の家を出て行った。

町の医師が帰ってすぐ、人形だったはずの「桐子」の様子が変わった。ドレッサーに座らせていたはずなのに、ゆっくりとぎごちなく自ら動き始めたのだ。しかしその動きはとても不自然で人間とは違うまるで化け物のような怪異なものだった。「桐子」は不思議な言葉みたいな声を発しながらズルズルと男の趣味で着せられていた重たい洋服をひきずり台所に向かって歩き始めた。あまりの異様な光景に綾香は「ひっ…」と苦痛の声を漏らす。その時、ちょうど外出していた男が綾香の元に帰ってきた。男は動き出した「桐子」を見てとても驚いたが、人形の「桐子」が今朝とは違う何か違う生き物に変貌を遂げたことにすぐに気がついた。「綾香。桐子に何をしたんだ?」男は綾香を問い詰めた。綾香は震えながら答えた。「何をしたって…私はお医者様に頼んであの人形に命をいれてもらったのです」

「桐子」はずるずると不思議な歩き方をしながらうめき声をあげ、男の家のキッチンで包丁を見つけるとおもむろにそれを手にとった。男も綾香も台所の扉の外でその様子を震えながらあまりの恐怖で立ちすくみ見るくらいしかできなかった。そして「桐子」はその包丁を「桐子」自身に向けてそのまま自害し亡くなった。キッチンは血だらけになりすぐに警察が来た。

警察は「桐子」の死体をひととおり調べて、「これは自殺ですね。他害の跡は見られない。気の毒に。大変でしたね。」と言って帰っていき、町の新聞には大きく取り上げられたが殺人事件にはならなかった。

綾香は町の医師のところに行った。「どうして桐子は死を選んだのかしら…」。町の医師は答えた。「小生の使用した臓器のホルマリン漬けは全て自殺者のものでね、甦らそうと思ったんだけどできなかったみたいだね。」綾香はそんなことを淡々と言う町の医師に狂気を感じ、泣きながら走って部屋を出た。それから二度と綾香は男の元にも町の医師の元にも姿を現さなくなった。

それから数ヶ月後。男は新しい人形を家に新しく迎えいれて、また「桐子」と名付け綺麗な仕立てのいい洋服と下着を着させ男の母親が使っていたドレッサーに座らせるようになった。

そして男は町の医師のところに訪ねていった。「実はお願いがありましてね。」町の医師は答えた。「小生にできることならなんでも」…。

男が町の医師に頼んだのは2体目の人形にまた手術をして欲しいと。ホルマリンの臓器は男が用意したものを使って欲しいと依頼されたのだ。

「ひとつ教えて欲しいんだが、いいかね?」町の医師は男に静かに聞いた。「このホルマリンの臓器たちはどこで手に入れたものだい?」男は黙って答えなかった。しかしホルマリンの瓶の底に名前が書いてあった。『母桐子』と。町の医師は数秒沈黙をしたがそれ以上は深く何も聞かず男の目を見て言った。「わかった。約束の日を決めて、人形に命を吹きこみましょう。次は上手くいくはずです。あなたの人形の桐子はあなたの母親の「桐子」になりますよ。任せてください。」

【短篇小説】蘇る人形【怪奇ショートストーリー】作:辰己美咲 写真:稲垣純也
(おしまい)

見出し画像は稲垣純也様にお借りしました。マネキンのお写真です。妻を放置して人形に服を着せ名前をつける男と、ホルマリンに漬けられた臓器をつなぎ合わせ人形に命をふきこむ町の医師といいう狂気じみた作品を書いてしまいました。

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