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革命の“ベイビー”

いつもタイトルには一番頭を悩ませるのだが、今回はスッキリと決まった。だっせー!と笑われそうだけれど、もうこれしか思いつかない。

そう、革命だったんだ。
その革命を確かめるために、私は我慢できずに「爆音上映会」なるものに参加してきた。音楽がいいんだぜ!と思った過去の私が間違っていないか確認のためだ。で、結果。間違っていなかった。
こんなにカッコいいカーチェイス、私はこれまで知らなかった。
そんな、私にデカすぎる衝撃を与えてくれた作品について熱く語りたいと思う。私の熱量が、うまく伝わればいいのだけれど。

『ベイビー・ドライバー』という映画がある。
『LALALAND』や『スターウォーズ』なんかと並ぶような、めちゃくちゃ有名な映画というわけではないと思う。監督だって、超メジャーではない。調べてみたら、私自身観なくても……と観ないでおいた作品の名前が並んでいた。今度、見てみようと思う。いや、絶対に観る。
『ベイビー・ドライバー』はバリバリのカーアクション映画なのであるが、もうそれだけじゃないのだ。とにかく、要素としては盛だくさんすぎるほどたっぷりの内容がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。
アクション映画には欠かせない悪役たちも、憎めない。いちいちセリフがカッコよくて、痺れるぜぇ……と瀕死状態になることもしばしば、というか殆ど。アクション映画なんて、正直苦手な私だけれど惚れ込んでしまった。もう、ぞっこん、である。

主人公は、ベイビーという一人の青年。天才的なハンドルさばきで、どんな状況も打破できてしまう走り屋である。

この青年はある事故がきっかけで、音楽が手放せない体質である。とにかく、音楽が命なのだ。どんな時でも、どんなシーンでも音楽。この映画の中では、ほとんど音楽が流れていないシーンがない。ひたすら、シーンに合わせて、またはベイビーの気分に合わせてカッケー音楽が流れている。もちろん、仕事の時は音楽が欠かせない。

音楽を知り尽くしたベイビーは、そのときの気分や状況にピッタリの音楽を選曲する。その“選ばれし音楽”たちは、アクションにピッタリなのだ。銃声も、爆破も。とにかく音楽にマッチしている。リズミカルに、音楽に合わせて放たれる銃弾に、スピードが緩められることのないドライビング。

た、たまらん……。思い出してきただけで、興奮してきた。

たまに、ベイビーはタイミングが合わなかったと仲間たちにやり直しを命じるときもある。そんな彼なりのこだわりが見えるのはちょっと楽しい。天才も、人間なのだと思えるからかもしれない。
ベイビーは基本的に話すことがしないし、結構むっつりと口を閉ざしていることが多い。が……たまにすごいノリノリになっているところもあって、そのギャップもいい。最低限の言葉と音楽で、彼は仲間と交流を深める。深めるといっても、きちんと深まっているのかは定かではないが。

そして、(たぶん)初恋に一所懸命なところもめちゃくちゃ可愛い。

ベイビーが恋するのは、行きつけのレストランでウエイトレスをしているデボラ。彼女と急激に距離を縮めていくベイビーも見どころの一つである。

デボラの美しい声に、和ませてくれるキュートな笑顔。ベイビーが骨抜きになるのも頷ける。デボラっていう名前がつかれている曲はこれ、と教えてあげるベイビーのちょっと得意げな顔。

いいよ……めっちゃいい。

なんてことのないレストランが、デボラの存在があるだけで最高の場所になる。これまで習慣のように通っていただけだったはずのベイビーが、彼女目当てに足しげく通う姿は天才ドライバーの面影はなくて愛らしさがあふれている。
ふたりのシーンで特に好きなのは、ランドリーで語り合うところだ。

一つのイヤホンを分けて、同じ音楽を聴いて互いのことを少しずつ明かしていく。恋が始まるんだ!いや、すでに始まっている!!と、もう勝手にドキドキしてしまう。
そんな大した話をしているわけじゃない。当たり障りなく、普通過ぎる会話を重ねて、ちょっとカッコつけたりして。そこに等身大のベイビーの姿が見えて、私たちはちょっとだけ安心するのだ。
ベイビーと共に暮らす里親のジョセフは、いつもベイビーのことを「お前は優しい。幸せを運ぶ男になれ。」と彼に話す。耳の聞こえないジョセフと音楽を楽しむシーンにも、デボラと過ごすシーンにも、ベイビーの優しさがにじんでいる。
犯罪行為の片棒を担ぎきれないベイビーの葛藤を、うまく表現している主演のアンセル・エルゴートには感嘆しきりだ。アンセルくんは、『きっと、星のせいじゃない』で知っていたけれど、今回のベイビー役で完璧にハマってしまった。がっしりとした体形に、ちょっと素っ気ない幼さの残る顔。笑うと崩れる隙もいい感じだ。……話が逸れた。
ベイビーの置かれている状況は、青春なんて言葉では片付けられない。でも“青春”だよねと言いたくなる爽やかさが、ベイビーとデボラの間には流れている。ベイビーがうち込んでいるのは、スポーツではない。もっと、血なまぐさい危険な仕事だ。天才的なドライバーで常に危険と隣り合わせのベイビーが、“普通の男の子”をしているというその光景のアンバランスさがすごくいい。
しかし、スクリーンには悲観的な空気は一切ない。なんだ?この空気感……と異様さを感じながらも、思い切り熱くなれるのである。
映画全体に散りばめられている、本気の遊びもまた醍醐味だ。いっちいち中二心というか、男のロマンというかをくすぐってくる。残念ながら、私は男ではないのだが、くぅ~!と口角を上げてしまうシーンがめちゃくちゃある。

それに、製作者が面白い!止まれねぇぜ!と作り上げていったのが、手に取るようにわかる。見れば見るほどに、こだわりが散らばっているのだ。

たぶん、私もまだ拾い切れていないロマンのかけらがあるはずだ。こんなの、これからじっくり楽しんでいこうぜ!と言われているようなものではないか。悔しいが、私はベイビーと長い付き合いになりそうだという予感がプンプンしている。
クライマックスのアクションシーンには、本当にロマンが溢れている。宝庫である。
ピストル越しに見える突進してくる車とか、意地悪だったはずのちょっとぽっちゃりな強面上司が、俺に任せろと銃を構えて撃ちまくったりとか。

このカット……!と興奮している間に、瞬時に新しいカットが飛び込んでくる出し惜しみのない感じも楽しい。観ている間、一つの感情をずっと引きずることは許されない。そんな目まぐるしさ、忙しさが気持ちいい。2時間ずっと、爽快感が伴うのだ。刺激しかない、そんな時間を楽しむことを強要される。

……そろそろ、観たくなってきました?

さて、肝心のラストであるが、とりあえずまとめました感がないのが私はお気に入りだ。
ご都合主義なんかくそくらえ、である。
いくら創作といえど、おとぎ話感があるのはあまり好きではない。

『ベイビー・ドライバー』は、最初から最後までご都合すぎるシーンがなく、とても楽しめた。あんなにリズミカルに、気持ちよく物語が進んでいくなんて……!
大きすぎる衝撃とともに、最高のエンタテイメントがそこにあった。
最近、毎日が退屈だ、とか、面白いものが観たい、とか、カッケー!と叫ぶことはなくなったな、とか。そんな何てことない、小さな鬱憤をため込んでいる人に観てほしい。
思わず、何度もガッツポーズと叫び声をあげてしまうはずだから。

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