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100の文体を、身につける旅 - 文体練習 『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』

先々週、文体ついて考えを巡らせました。
noteを続けていて、もう少し味のある文章を書けないものかと考えあぐねる日々です。

今までの記事制作では、考えを文章に置き換えること、「何を書くか」に精一杯で、「どう書くか」への意識が希薄でした。
「どう書くか」について、何かヒントになる本でもないかしら?と、インターネットにくり出したところ、気になる一冊が見つかります。
神田桂一・菊池良 共著  『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』。
村上春樹・太宰治・ドフトエスキーなど。文筆業界で名の知れた100の文体で「カップ焼きそばの作り方」を書き記す、遊び心あふれる一冊です。

まさに今の私が求めていたもの!
この本をヒントに、文章にはどのような書き方があるかを学んでみます。
以下は、その学習レポートです。

00. 学習の狙い

カップ焼きそばの作り方を100本読み、何を得たいか。
ろくに文章術を学んだことがない私は、文体について以下のことを知りたいです。

  1. 文体(文章の持つ"らしさ")には、どのような方向性があるかを知りたい

  2. それぞれの"らしさ"は、何に由来するかの理解を深めたい

  3. 自分は、どういう"らしさ"を出せるようになりたいかを具体的にしたい

村上龍らしさ、伊坂幸太郎らしさとは、つまりどういう質感のことで、どういう文章を書けばそれに近づけるのか。自分はどういう方向性で文章を練習してみるのがいいか。そうした発見を目指します。

ちゃんとやるなら大学研究レベルの内容な気がしますが、あまり深く考えず、気楽に取り組んでみます。

0. "らしさ"の抜き出し

この本にある「カップ焼きそばの作り方」とは、どういったものでしょう?
例えばこんな感じ。

二銭焼きそば  江戸川乱歩

若し読者諸君がカップ焼きそばに興味があるのでしたら、そして、その身体の内に途方もない食慾がムラムラと沸き起こっているのでしたら、では、これからその作成方法についてお伝え致しましょう。
(後略)

ミステリーが得意な江戸川乱歩らしい、おどろおどろしい書き出し。
このようにして、古今東西の100の文筆家の筆致で、ひたすらにカップ焼きそばについて語られます。中には『POPEYE』のような雑誌や、"ヴィジュアル系バンド"といった、小説以外の文体も取り入れられています。

カップをカップルで 焼きそば君のそば  ラッパーの詩集

カップ麺にお湯注ぎ それで済むわけない禊(みそぎ)
身動き取れない君の瞳 一瞬固まる緊張し過ぎ
過去の過ち消せずに苦労 火薬入れたらこぼれて徒労
(後略)

まずはこれらの文書を一通り読み、それぞれの文章からどのような印象を受けるか。すなわち、それぞれの文体の”らしさ”とは何かを抜き出してみます。

1. 文体には、どのような方向性があるかを知る - グルーピング

一通り抜き出しました (疲労)

文体それぞれの印象リスト

例えば芥川龍之介は、「ゴツくて、黒黒している」という雰囲気があります。フィッツジェラルドは「周りくどくて、ノーブル」な印象です。

最初の目標は「文体には、どのような方向性があるのかを知る」でしたが、これだけだとまだ分かりづらい。
幾らか文体が似ている文章をグループにしてまとめ、よりハッキリと特徴を抜き出してみることにします。

一文の長さや修飾語の量などから、定量的なグルーピングを試みたかったですが、めちゃめちゃ手間。しかも、それぞれの文章は想像以上に幅があります。
ここは客観的であることは諦めて、個人の感覚に頼ってグルーピングしてみます。
例えば、池上彰と内田樹は近く、小林よしのりとは全然違います。暮しの手帖と、さくらももこはなんとなく近いですが、本田宗一郎とはかなり遠いです。

こうして幾つかのグループに分けてみると、文体の方向性が見えてきます。
具体的には、次のグループに。

文体の9グループ

それぞれの特徴は次のとおりです。

  1. 内省的・静かな書き手:太宰治、又吉直樹など

    1. 特徴:主観からの語りで、世間や他者が入り込まない。テンションが低いところで一定している

  2. 思弁的・曲線的な書き手:蓮實重彦、スーザン・ソンタグなど

    1. 特徴:現実を抽象化・モデル化して、概念的な話へ移行しがち。ともすれば独善的で、話がストレートに進んでいかない。

  3. 無頼・マスキュリンな書き手:菊池寛、サミュエル・ベケットなど

    1. 特徴:場面に対する、自らの感性についての感想が多く挿入される。主観的な評価が多く、他者や世間は登場するものの背景でしかない。

  4. 幻惑的・感覚的な書き手:稲川淳二、アンドレ・ブルトンなど

    1. 特徴:修飾語が長くて多い。特に五感にフォーカスした感想が多く、比喩的・抽象的・詩的な表現が続く。

  5. 丁寧・距離がある書き手:池上彰、暮しの手帳など

    1. 特徴:読み手への配慮が織り込まれている。一定して冷静で、押し付けるところがない。

  6. 写実的・シンプルな書き手:コナン・ドイル、川端康成など

    1. 特徴:風景や場面や人物、動作の説明が明快で、何が起きているか客観的に把握しやすい。率直、端的に述べられる。

  7. 素朴・家庭的な書き手:糸井重里、さくらももこなど

    1. 特徴:場面に対する、身近でやや感覚的な感想が多く挿入される。他人や社会へのシンパシーを示す描写が多い。

  8. 高圧的・能動的な書き手:田山花袋、ドストエフスキーなど

    1. 特徴:主観的な表現が多く、他者や世界や社会集団が、敵対的に相対する形で登場する。

  9. ポップ・距離が近い書き手:吉田豪、週刊プレイボーイなど

    1. 特徴:読み手の意識・読み手への配慮が目立つ。フランクで、読み手の行動を促したり、誘い出すフレーズが目立つ。

念の為、再度断りを入れておくと、このグルーピングは全く個人的なものです。人によってタイミングによって、別のグループへ移動するだろうし、グループの増加・削除も大いにあり得ます。
そして、それぞれの雑感は『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』でコピーされた文体をもとに行なっています。田山花袋が高圧的で能動的な文体グループに属するというのは、この本の中の「田山花袋」であって、本物の田山花袋がどうかは全く分かってません。
今回は、文章にはどういう書き方があるかのミニ・リサーチに過ぎないので、一応十分として先に進みます。

2. それぞれの"らしさ"は、何に由来するかの理解を深める

大まかな「文章の書き方の種類」が分かったところで、次に気になるのは「どうすればそのように書けるのか」。
思うに、上に挙げた9のグループは、3つの書き方のパラメータの組み合わせとして表現できるのではないか。
それすなわち、「読者との距離・書き手のテンション・描写をどう行うか」。
例えば、「読者と距離を置いて・テンション低めに・写実的」に書けば、上に挙げたグループ1の、太宰治や又吉直樹と近い場所での文章を書けるのではないか。
この3要素に意識してライティングを行えば、目指す文体に近づきやすいのではないか。

実際、ライティングには「トンマナ」という言葉があるそうです。
それは文章のトーンとマナーに気にかけるということ。これらが一つの記事において統一されていない場合、読者にチグハグな印象を与えてしまいます。
「書き手のテンション」「読者との距離」は、それぞれトーンとマナーに対応しており、そこに「描写をどう行うか」を加えたのが、自分の文体分類です。

以上の発想を念頭に、具体的にそれぞれの文体の書き方考えてみます。
それは思うに次の通り。

  1. 読者との距離 -> 読み手との関係性をどう設定するか

    • 遠くに設定したい場合:主観や、語り手からの視点の描写に専念する。読み手への配慮や、一般論を含めない。

      • 用途:一人称小説。自己表現。独自性、ハードボイルド感の演出

    • 中間的に設定したい場合:第三者からの視点で描写する。つまり、「誰からみてもそのように判断できる」がベースになる。

      • 用途:三人称小説。ミステリー。ニュース。論説。

    • 近くに設定したい場合:読み手に語りかける。読み手の理解を確認したり、行動を促したりする(「〜だと思いませんか?」「〇〇してみましょう!」)

      • 用途:マーケティングやSNSなど、”繋がりたい”文章。

  2. テンション -> 世界にどう相対するか

    • 低めの書き方:ネガティブな言葉選び。受動的、リアクションから話が展開する。これから(未来)の話ではなくこれまで(過去)の話になりがち。

      • 効果:冷静な印象、分析的な文章と相性がいい。

    • ゼロテンションでの書き方:感情の起伏が狭い。心理的な描写が少ない。短文で、修飾語が限定的。

      • 効果:機能的。ビジネス文書など、客観的な描写と相性がいい。

    • 高めの書き方:感嘆符(!?)の多様。口語表現の活用。ポジティブな言葉選び。行動的・活動的・社交的な描写・視点。

      • 効果:エンターテイメント性の演出。ユーモアの導入。

  3. 描写のあり方 -> 世界をどのように描写するか

    • 写実的な描写のあり方:修飾語を極力排して、誰にとってもそうであるよう客観的に記す。

    • 理知的な描写のあり方:現実を抽象化・モデル化して、概念や数理をベースに記す。

    • 婉曲的な描写のあり方:現実を過度に装飾して、筆者の内面や感性を織り込んで記す。一文が長くなりがち。

    • ストレートな描写のあり方:事実・実体の伝達に努め、評価や感想など間主観的な単語を入れずに記す。目的主義的・機能的で、短文が多くなりがち。

かぶっている要素が多くて、MECEになっていないのが気になりますが、まぁともかく。9グループを要素分解すればこんな感じでしょうか。

自分の今までの文章を、上記の指標に沿って振り返ってみます。
距離感については、どうしたって「どう読まれるか」に意識が向いているけど、さりとて積極的に読み手とコミュニケーションを取ろうとしていない。ので、「近いよりの中間」。テンションは、客観的であろうと努めているので「ゼロテンション」。描写のあり方は、現実そのままを記しているわけではないし、抽象的な話が多いので「理知的」。
つまり、グループ5: 丁寧・距離がある書き手 かなと分類できます。

3. 自分は、どういう"らしさ"を出せるようになりたいかを具体的にする

今回、100の文体を読んでみて、感じたことがあります。

1. 個性がハッキリすると読みやすい。
当然ですが、本書でピックアップされた方々は、みな読むとそれと分かる強烈な個性・印象がある人達です。個性がハッキリあるということは、文章の「トンマナ」が安定しているということ。それゆえに読みやすい。文章へ期待できることが、見えやすいからです。
翻って自分の文章は、特に「距離感」がバラバラで、読みにくい。これを改善したいところです。

2.「読者との距離・書き手のテンション・描写の特徴」のパラメータはアンチパターン
専門的なことは分かりませんが、おそらく、今回分析した"書き方パラメータ"について、複数の書き方を混ぜる文章はよくなさそうです。
グループ9: ポップ・距離が近い文章を書きたいなら、主観の視点に終始してはいけないし、リアクティブな組み立てもよろしくない。
まずは、そうした"やってはいけないこと"を意識することで、「トンマナ」を安定させることができるのではないか。

3.文体とは、言葉選び・決め台詞
そして、「やってはいけない」を意識したところで、自分の”文体”を獲得できるわけでもない。それは、さらに踏み込んだ取り組みが必要だよなぁと感じられました。
文体とは、その人ならではの言葉選び・決め台詞・フォーマットのこと。ユニークである文体は、統計的な分析から到達できるものではありません。
書き手の持つ特有の価値観が研ぎ澄まされ、誰かの真似でなく、自分独自の表現方法に目覚めてこそ、文体は確立されるのだろうなと改めて感じました。

結論
以上踏まえ、どのような"文体練習"を進めていくか。
私は、グループ6: 写実的・シンプルな書き手 に近づきたいなと思いました。つまり、描写をもうちょっと客観的にして、主観的な修飾語を削り、読み手との距離感を一定に保てるようにしたい。
どうすれば、そのような書き手に進化しているけるかは、今回の"分析"を足掛かりに、より具体的に考えていく必要があるかなと思います。

とはいえ、前々回の記事で触れた通り、文体は複数身につけることがよしとする話もあります。
今回のような、読書レポートを書く際は、グループ6的な文章を目指したいですが、批評やエッセイではまた別の方向性を試してみたい。
そうした書き分けの、ちょっとしたヒントにでもなれば幸いです。


*****


最後までご覧いただきありがとうございました!
軽い気持ちで始めたところ、ちゃんと考えようとすればするほど、混乱してきました。有識者の見解もとむ。

一冊の本として、サクッと楽しんで読めるのでおすすめです。
それぞれの書き方にどういう違いがあるか、自分であれこれ考えてみるのが楽しいと思います。
というか、読んでみないと文体の種類はなんのことやら分からないと思うので(書いといてなんですが)気になった方は是非手に取ってみてくださいませ!


これからも週に1回、世界を広げるための記事を書いていきます。
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どうぞ、また次回!


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