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記事一覧

貝

一度心を決めてしまえば

すべてを遮断してしまうことは

貝にとって

案外たやすいことだった

殻を閉じ 砂に沈む

波が来て 身をさらう

元いた場所に 戻るということは

あるべき姿に 帰るということは

なんて 心地が良いのだろう

なんて 安らげるのだろう

貝の姿は やがて見えなくなる

いくつかの 泡だけを残して

月だけがぽっかりと 海の上に

静かに 浮かんでいる
#詩

層

悲しみや寂しさは
薄い層になって降り積もる
それは透明で見えないのだけど
確かにそこにあって
でも私たちは普段
それに気づかないまま
笑ったり眠ったりして過ごす
いいのかな
それでいいのかな
答えは出ないまま
今日という名の人生を抱え
ただ漫然と生きる
前を見て 生きる

春

春の風を 頬に感じながら
母とふたり 川に架かる橋を渡る
梅の香りが ふうわりと漂い
流れる水音は 耳に心地良く

ただ嬉しくて
ただ楽しくて

私たちは一緒に 歌を 口ずさむ
#詩

それはまるで

見上げれば遠く

翼広げ舞う鳥がいて

それは 飛ぶ ではなく

まるで たゆたう ようで

「みて」と

誰に言うでもなく

ただ見とれていた

霜月の昼

言葉なんて

言葉なんて 偽善

言葉なんて 薄情

言葉なんて 上っ面

言葉なんて 裏切りもの

言葉なんて おためごかし

蹴っ飛ばしたいぐらい憎らしいのに

それでも

抱えながら生きてゆく

ちっとも 信用なんかしていないのに

ことばなんて

口笛

口笛吹いて
空を見上げ
いつかの歌
懐かしく

大空は 無けれども
確かにここにも
空はあり

かすかに聞こえる
鳥の声 遠く

それでも
確かにはある
青い空

目の中が熱くなるのを
そっとこらえ

ぴゅうっと
ひと吹き
#詩

見津 知恵瑠

雪の結晶のような
そんな模様がある窓に
虹色の光が 反射して

ああ なんて
なんて綺麗なのだろうと
ただ 嘆息して思う

ここから
逃げ出したいと 思うのでなく
自分を変えるための
チャンスなのだと

その機会を与えられたのだと

そう考えることにしようと

窓に映る
虹色の光 見つめながら
#詩

見津 知恵瑠

父

短気 ひねくれ あまのじゃく
口下手 気まぐれ あわてんぼう

どんな父かと聞かれたら
こんな父だと答えるけれど
気づけばすべて そのまんま
自分のことに 当てはまり
呆気にとられて しまうのです
同時に可笑しく なるのです

全部引き継いでしまってる
ほんとに親子なんだなと
そんな事実にキョウガクし
ひっそり苦笑するのです

話せばいつもケンカして
反発し合うことばかり

それでも まあ

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ショパン

雨の日の部屋で
タオルケットにくるまって
ショパンをずっと聴いていた。

「ゆるやかに流れる時間」

まぶたを閉じたら
それが少し 見えた気がした。

やわらかく、前よりずっとふわりとしていた。

柔軟剤を
使ったのかもしれない。
#詩 #雨の日

見津 知恵瑠

雨にぬれても

白い空 見つめ

浮かぶ雲 数えていた

露(つゆ)に濡れた 庭の緑

紅茶の湯気の 向こう側 

明るい雨の歌

静かな部屋 満たす

「泣きごとは 言わないよ」

「ぼくは 負けたりなんてしない」

B.J.トーマスの

力強い歌声が

仄暗(ほのぐら)い部屋の中

やさしく照らし

湿った空気

ゆるやかに 解(ほど)け出す

******

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母

微笑み
励まし
寄り添い
叱咤

日だまりのように
ほがらかで
風のように
爽やかで
いつも元気をくれる人
いつも味方をしてくれる人

「死ぬ気でやれば 何でもできる」
「受けた仕事に 責任を持て」
当たり前にシンプルな
そんな教えを語る人
背中でそっと見せる人

あなたの娘で良かったと
親子でほんとに良かったと
生まれた時から変わりなく
思い続けて早幾年

いつまで一緒に過ごせるか
それは神のみ

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風景

ほんとうの詩が詠みたい
青空を見上げる午前10時

泣きたくなるよな心模様
散弾銃で吹き飛ばし

散った破片を寄せ集め
真綿で優しく包むよな

心にそっと寄り添って
胸がすっと梳くような

静かで
熱くて
矢のような

自分で書けたらいいのにと

おいてけぼりと名乗るには
あまりにほんとのこと過ぎて

線路沿いの街並みと
高層ビルの向こう側
ガタゴト電車の行くホーム
#詩 #詩作 #おいてけぼ

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まむしは目覚めないように

心の中に 飼ってるものが
頭をもたげて 起き上がる
それは起きてはいけないもので
それは寝てなきゃならないもので

なのに時々ふと起き出して
暴れ出そうとするのです
どうにも手なづけられないのです

どうかまむしは起きないように
眠ったままでありますように

とんとんとん、と胸叩く
とんとんとん、と眉間を叩く

もう二度と
まむしが目覚めないように
#詩 #まむしは眠ってる

見津知恵瑠

理由

理由

何のために書くのかと
もしも理由を聞かれたら
わたしは何と答えるだろう
あなたは何と答えるだろう

それは遺すためではなくて
届けるためと
たぶんわたしは答えるだろう

届くことは 瞬間だから
瞬間は 永遠だから
永遠は 解放だから
解放は 救済だから

何のために書くのかと
もしも理由を聞かれたら
#詩

見津知恵瑠