見出し画像

この世界の片隅に 普通が愛おしい

自分が愛する人には、元気でつつがなく過ごして欲しいと願うもの。世の中が平和な時はもちろん、戦争や震災、有事の時も、どんな時にでも。人々の愛する人への願いは変わらない。

『この世界の片隅に』2016年公開。日本のアニメ映画。片渕須直 監督・脚本。こうの史代 漫画原作。太平洋戦争の戦前、戦中、戦後に青春期を迎えた主人公すずの日常を丁寧に描いた作品。

見終わって、ホッとした作品。

昭和初期、第二次世界大戦前後の時代設定と、原子爆弾が投下された広島や軍事港であった呉を舞台にしているため、戦災の凄惨な状況が強調されて、胸が締めつけられるような後味の作品なら、どうしようかという戸惑いを作品を観る前は持っていた。

段々と配給が少なくなり困窮する食卓、空襲警報がなり、防空壕に身を潜め、飛行機音が響くことが日常的な戦時下ではあっても、普通の女の子の日々がほのぼのと描かれ、時にたわいのないことで照れ笑いしたり、心にわだかまりをもったり、また人によって癒されたり、些細な喜びや楽しみがあり、悲しみや怒りがある。現代と変わらぬ人々の暮らしを共有出来る作品となっている。


主人公は広島弁をのんびりと話す…頭に浮かんだのは、広島弁を話す友達のこと。彼女ものんびりとした広島弁を話す。先日、お宅にお邪魔しとお茶を頂いたので、益々彼女と主人公が被った。

主人公は照れ笑いする…画家、中島潔さんの描く子どものように、くたっとしたポーズをとる姿が可愛らしい…

主人公は家業を手伝ったり、家族で祖母の家に遊びに行ったり、学校に通ったり、淡い恋心を抱く少年がいたり、絵を描くのが好きだったり、浴衣を着たり…なんだか、自分の子供のころを思い出した…

主人公は相手からみそめられて、18歳で呉に嫁ぐ。姑さんも、旦那さんも優しい人たちだが、口うるさい出戻りの小姑とその娘がいた…私が介護させて頂いたお年寄りのお話が頭に浮かぶ…見合いだったけど、結婚してから大好きになった優しい旦那さんに、映画や舞台に連れて行ってもらった話や、口うるさい小姑の愚痴や嫁の愚痴…

主人公は爆弾が降り注ぐ空を見上げる…少女時代、爆弾を製造する工事で働き、酷い空爆を生き抜いたお年寄りの逞しいお話を思い出した…その話をした方の就業地を聞いて、周りのお年寄りが感嘆の声を上げていた。戦争を知らない私には考えも及ばないような激しい爆弾投下をされた場所ということだった。

主人公は戦争で家族を失くし、自責の念と新たな希望を見出す…捨てる神あれば拾う神あり。子どもの成長を喜ぶ親の姿はまた、自分が子どもの頃、大切に育てて頂いた親の姿に重なる。

主人公の昔好きだった少年は、大きくなって彼女の前に現れて言う、「いつでも普通なお前でおれ。」と。どんな時ものんびりと朗らかで、少しドジ。普通でまともな、変わらない彼女が彼も好きだったに違いない。

平和な時代に生きる私にとって、畏れおののくような戦火の中に生きた人々の日常が、あまりにも普通に描かれていた。”暮らし続けるのが、私らの戦い”という主人公のセリフそのままに、人間の逞しさを感じる映画だった。

その時代を生き抜いたお年寄りの幼少期や青春時代に思いを馳せ、今ここに普通に存在されていることの希少さに労いを伝えたい。

太平洋戦争から半世紀、今だからこそ、表現出来る戦時中のリアルな普通でまともな生活。平和に守って行きたいと思う、普通の生活の愛おしさを感じる映画だった。




この記事が参加している募集

おすすめ名作映画

映画感想文

よろしければサポートお願いします❣️他の方のnoteのサポートや、子供たちのための寄付、ART活動に活かしていきたいと思います。