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『幸せなひとりぼっち』 いい人

始まりのシーンから、この方‘いい人‘なんだろうな、‘いい人‘の話なんだろうなと思う映画がある。

この『幸せなひとりぼっち』は、1束50クローネの花から始まる。サービスで2束70クローネの花を1束35クローネにしろと店員さんにクレームを言う冴えないおじさん。厄介なストレス発散型のコンプレックスおじさんかと思いきや、結局2束の花束を妻のお墓に捧げながら、亡き妻に語りかけている繊細で心優しいおじさんの姿から始まる。

『幸せなひとりぼっち』2015年、スウェーデン映画。 監督はハンネス・ホルム、出演はロルフ・ラッスゴード。 原作はフレドリック・バックマンの2012年の同名小説。最愛の妻を亡くし生きる意味をなくした男が、近所に越してきた女性とその家族や、地元の方々との交流を通して、過去を振り返り、今を生きるお話。

自分の思い描いた未来の姿ではない今を嘆き、現実の厳しさに打ちのめされて自殺を試みるまでに、思い詰めた時、自分が無意識にでも辿って来た道が周りの方々の幸せに貢献出来ていた事実に気付き、今まで生きて来て、それでも良かったのだと思える映画。

1946年フランク・キャプラ監督『素晴らしき哉、人生』と重なった。家族のため、隣人のため、町のためと自分を自然と犠牲にして来た主人。だけど、最後にはその恩恵に預かった人々の善意に救われるお話。

とにかくこのおじさん、妻を亡くしてから、自暴自棄。周りの方々への態度も粗野で偏屈そのもの。そしてあらゆる手法で繰り返し、妻の元に行こうと自殺を試みる。妻のいない世界に耐えられない様子。

そしてその度に、過去の走馬燈を見る。子供の成長を喜ぶ父のこと。美しく快活聡明な妻のこと。仲の良かった隣人のことなどなど…そして、いつも外の喧騒に邪魔をされて自殺を諦め、その厄介ごとを解決しに行ってしまい、人の役に立ってしまう。

口では、ぶっきらぼうなことしか吐かないが、元々の性格が律儀で真面目で正義感が強いため、面倒だと思ってもほっておけない。だからこそ、周りの方々から信頼が厚い様子。おじさんは無愛想なのに、町のみんなが気軽に挨拶している。おじさんは”いい人”なんだなぁと、そこに面白さやおかしみを感じずにはいられない。

‘自分なんていない方が良い‘と、思えても、人1人の存在はあらゆることに影響を与えている…そんな意味のセリフが映画『素晴らしき哉、人生』でも、語られていた。

おじさんが、面倒だと思いながら、悪態をつきながら不本意にでも助けた人々の面々は、おじさんに感謝している。おじさんはちっとも、嬉しくもなかったけれど…最後にはやっぱりちょっと嬉しかったかな。

おじさんは、孤独とは無縁。いつだって誰かのお役に立ち、誰かから必要とされている。おじさんが”いい人”と分かっているので、周りには沢山の人がいて賑わっている。ただ、おじさんは絶賛不幸の真っ最中。自分の殻にこもっている限り、その幸せにちっとも気付いていない。『幸せなひとりぼっち』とは、決してひとりぼっちじゃないし幸せがすぐそばにあるのに、ひとりぼっちを感じている愛に溢れた人をうまく表現している。


おじさんのように、自分が行う何気ない事柄、何気ない言動が、人々に作用し、良い循環を起こせたら良いなと思う。

おじさんのように、律儀にはなかなかなるないけれど、おじさんの妻や周りの方々のように、真面目な人を明るく愛するのも素敵な隣人の姿だと思った。

また、自分の価値を卑下するのもやめようと思う。いつか悲しいことが起こっだ時にも、きっと何かの理由があり、この悲しみも誰かのお役に立てているに違いないと思おう。

”いい人”

おじさんのような”いい人”は、きっと身近にいると思う。最初の印象だけでは理解し難いけれど、愛すべき”いい人”が沢山いると思う。

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