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癒される不思議な話 9話 「父の葬儀当日のできごと」

私は姉たちと年が離れた末っ子で、父が40代後半のときに生まれています(5人兄弟です・・・)。
父は80代後半という、男性では長生きな年齢で天寿をまっとうしましたが、そんな事情があって当時の私はまだ30代でした。これは、父が亡くなったときの不思議な体験です。

廊下を移動する謎の音

父が亡くなったとき、葬儀会場の都合や日取りの関係で荼毘に付すまでの期間が5日ほどありました。そのお陰で、私たち家族はゆっくりお別れができたわけですが、葬儀前日いよいよ父の遺体を葬儀場に移し、父を一人にしないよう兄と義兄たち男性陣は葬儀会場のゲストルームで一泊。葬儀当日は女性陣と子供だけでややのんびりな朝を迎えていました。

私とすぐ上の姉は、一階の玄関脇にある和室で寝ていました。その奥は父を寝かせていた和室で、祭壇があります。
なんとなく目が覚めた私は、廊下の奥の方から聞こえてくる妙な音に気づきまし
た。

コン・・コン・・コン・・・・

まるで、ピンポン球を打っているような軽い、乾いた音です。
何だろうと思っていると、
「あれ?何の音だろう?聞こえる?」
隣の姉も聞こえているようで、問いかけてきます。

「うん、聞こえる。何だろうね?」
「・・あれ?音、移動してない?」

姉が言う通り、音は少しずつ近づいています。そして、同時に
ミシ・・ミシ・・・
という、重さがかかるような音も聞こえてきます。

「あれ、お父さんの足音じゃない?」
「あ、そんな感じだね」

コン・・コン・・・
ミシ・・ミシ・・・

音は奥の廊下からやってきて、やがて私たちが寝ている部屋へ。少し止まったかと思うと、今度は別の場所へ移動していくようです。
音は一階を回り、玄関が開く音を最後に聞こえなくなりました。
姉と話し、恐らく、父は最後に家中を見て回り、出て行ったのだろうという見解に。
たしかに、音はそんな感じで移動していたのです。

生前の父の楽しみ

甥っ子や姪っ子が小さかった頃、年末年始やお盆の時期などは実家は毎年大賑わい。皆、好きな部屋を陣取り、思い思いに寝て実家での楽しい時間を過ごしていました。

朝になると、父はそれぞれの部屋を回ります。家族が集まっているのを見るのが大好きだったのです。

「この部屋は誰が寝てるんだ^^」
「なんだ、〇〇は今日はこっちか」

などと言いながら、ニコニコ嬉しそうな父。
ときにはお雑煮のお餅を自ら焼いて、
「〇〇は、餅いくつ食べるんだ?」
「ほら、好きなだけ餅、持っていけ^^」
と楽しそうにお餅番をしていたこともあります。

葬儀当日も、同じように部屋を回り、いつものように嬉しそうに笑っていたのだろうと思います。
そして、お別れをして出て行ったのでしょう。

両親が元気だった頃、家族に食べさせたくて、父と母は家庭菜園でいろいろな野菜を作ってくれていました。
年末の餅つきも、毎年決まりの我が家の行事。両親のお餅は、今でも私の中で一番で、超えるものがありません。

姉のひらめきで見た光景

音が静まり、起きていくと上の姉たちは台所で朝ごはんを用意してくれていました。普段は霊感がないと言っている姉まで足音らしきものは聞こえたそうです。

ご飯を食べていると、すぐ上の姉がいきなり
「ほうれん草」
と言い出しました。ほうれん草が頭に浮かぶと言うのです。

思い立って、私とすぐ上の姉は向かいにある畑へ行ってみることに。
そこには、食べ頃の見事なほうれん草が何列も育っているではありませんか。それは、父が残してくれた最後のご馳走でした。




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