呼び声 04/26


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 夏妊む幹のやさしさなどを識るかたわれもない存在のなか

 いつわりのわが家わが妻遠ざかる水のなかにて自己見失なば

 ひたさわぐ葉桜通り指をもて16ビートを刻むゆうまぐれ

 まぎれてもなお叫ぶ死者あり書物とは祝祭の一形態なり

 破戒することのよろこび絶えぬなか射撃音すら愛しくおもう

 わかもののふりして晩熟嗤いたるおとこのようなかぜが吹いてる

 なきにせよ 残されたものを咀嚼する家並み遠い午後の潮風

 アリシアの髪留め残る棺にて捧げられたる友のひと声

 ベニグノとマルコのあいだ隔てたるガラスのまえの熱い手のひら

 洋上に滞む舟さえ愛らしいことばならずや夜の汽笛は

 夜を唄う歌手のまなざしモニターのなかにゆれたり舟のごとくに

 たがいの腕をとる 仕草までそっくりだレイト・ショーの夢

 草萌ゆる夏の繁みはひと殺し 門柱のみが残されてゐて

 汗にただ額髪濡らし肉屋ゆく鳥軟骨を買いし雨ふり

 あべこべの靴を穿いたね 思想とは羽をいちまい喪うようだ

 聴いてゐたでしょう ぼくの躰が少しづつ大きくなると予告したのを

 アメリカというなまえすら子猫には与うことなどあるはずもなく

 よるの静寂 いつまでつづく生活は鉄条網の終わるところまで

 夏繁る防火水槽いっぱいにわれのおもづら膨張したり

 季節読む双眼鏡よきみがまだ存ったことなどいま忘れたく

 大根のようなしろさで迫り来る婦人の足よきょうもせつない

 親指にぎっしり肉がつまってるかつての友のおもかげはなし

 手配書に残されていまだ告知されぬ爆弾男の初恋のひと

 沈む寺 暗黒祭り望みおるみじんの愛も見えもせぬまま

 乳母車ならぶ教会 礼拝の時間はまだかといかける声

 水場にて憩う恋人たちの夜ポートライナー終電来りき

 子供らと雲撃ち落とす夏雲は父性のごとくそら侵したり

 ダッシュボードにおかれたままに朽ちてゆく青い揚羽は不死の象徴

 "isolation" 口の運動する真昼われ呼ぶ声はいまだなかりき

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