付き合いたてのカップルがラブラブする話(短編小説)


「あ、あの……」
「……え?」
放課後。
いつものように部室で読書をしていた俺は、突然後ろから声をかけられた。
振り返ると、そこには――。
「こ、こんにちは」
頬を朱に染めた美少女が立っていた。
この子の名前は桜木結衣。
俺のクラスメイトだ。
いつもは眼鏡をかけているのだけど、今日は外している。
そのせいか、いつもより大人びて見えるな。
「ど、どうしたの? こんなところで」
「い、いえ、ちょっと君に用があって……」
「俺に?」
「は、はい。今、少しお時間よろしいですか?」
「うん、大丈夫だよ」
「そ、そうですか! では、こちらにどうぞ!」
そう言って彼女は、部室の奥へと俺を案内する。
「それで、用事ってなに?」
「あ、えっと、ですね……」
結衣ちゃんは何やら言い淀んでいるようだ。
いったいどうしたんだろう?
「実は私、あなたにずっと伝えたいことがあったんです」
「俺に?」
なんだろう? 俺、何かしたかな? まったく身に覚えがないのだが……。
「はい、そうです。だから今日、勇気を出して伝えようと思いまして……」
そう言うと、結衣ちゃんは大きく深呼吸をして――。
「私は、あなたのことが好きです」
「……へ?」
「だから、私はあなたが好きなんです」
「…………」
突然の告白に、俺は何も言えなくなってしまう。
しかし、そんな俺のことなどお構いなしに、結衣ちゃんは続ける。
「最初はただのクラスメートでしたけど、一緒に過ごすうちにどんどん惹かれていったんです。あなたの優しいところとか、意外と頼りになるところとか、そういう一面を知るたびに、どんどん好きになっていきました。それからは、もうあなた以外の男の人なんて考えられません」
そこまで言うと、結衣ちゃんは再び大きく深呼吸し、そして――。
「私と付き合ってください」
そう口にした。
彼女の目は真剣そのもので、とても冗談を言っているようには見えない。
つまりこれは、マジなやつだ。
どうしよう……。
まさかこんなことになるとは……。
正直、俺にはまだ結衣ちゃんと付き合う覚悟はない。
そもそも恋愛経験すらない俺が、いきなり彼女を作るだなんて早すぎると思うのだ。
だけど、ここで断ってしまうと、彼女に恥をかかせてしまうかもしれない。
それに、彼女が勇気を出して想いを伝えてくれた以上、俺もそれに応えるべきじゃないのか? いや、応えるべきだよな……? だって、こんなに真剣に想いを伝えてくれたんだ。
だったら、俺もそれに応えないと……!
「わ、わかった……!」
「え……?」
「よ、よろしくお願いします……!」
覚悟を決めた俺は、結衣ちゃんにそう返事をした。
すると、彼女はパァっと表情を明るくさせる。
「ほ、本当ですか!?」
「う、うん……」
「ありがとうございますっ!」
結衣ちゃんは満面の笑みでそう言った。
こうして俺たちは恋人同士になったわけだが、もちろんすぐに何かが変わるわけではない。
ただ、一つ変わったことがあるとすれば、それは――。
「おはようございます、悠真君♪」
結衣ちゃんが、以前よりも積極的に話しかけてくるようになったことだろうか。
今まではクラスでもあまり話さなかったのに、今では毎日笑顔で挨拶してくれる。
まあ、それだけ仲良くなれたってことなのだろう。
きっとそうだ。
「おはよう、結衣ちゃん」
だから俺も、なるべく笑顔で返事をするようにしている。せっかく恋人になれたんだ。
どうせなら、楽しく過ごしたいからな。
さてと、今日も一日頑張るぞ!

一方その頃、とある一室では――。
「はぁ~、やっぱりあの二人はお似合いよね~」
二人の様子を見ていた一人の女子生徒が、ため息交じりにそんなことを呟いた。
どうやら彼女もまた、二人の様子を陰からこっそり見ていたらしい。
「それにしても、まさかあの結衣が恋をするだなんてね~。これも全部、悠真君のお陰かしら?」
少女はニヤリと笑うと、そっとその場を離れるのだった。
「なあ、結衣ちゃん」
「なんですか、悠真君?」
ある日の放課後。
いつものように部室を訪れた俺は、隣に座る美少女に声をかけた。
「えっと、そろそろ離れてくれないかな……?」
「嫌です」
即答だった。
しかも、ギュッと俺の腕に抱きついてくるおまけ付きだ。
おかげでさっきから柔らかい感触が腕に当たっていて、落ち着かないったらありゃしない。
「なんでだよ……」
「そんなの決まってます。私が悠真君と離れたくないからです!」
「そ、そうか……」
相変わらずブレないな、この子は……。
というか、こんなところを誰かに見られたらマズくないか? ここは一応、学校なんだし……。
「大丈夫ですよ」
「……どうしてそう言い切れるんだ?」
「ふふっ、女の勘ってやつですよ」
そう言って結衣ちゃんは得意げな笑みを浮かべる。
そんな表情も可愛いなぁ……。
じゃなくて! 今はそれどころじゃないだろ!? 早くなんとかしないと……!
「ゆ、結衣ちゃん? さすがに学校でこういうのはどうかと思うんだけど……」
「むぅ……。わかりました、今日はこれで我慢します……」
渋々といった様子で俺から離れる結衣ちゃん。
あ、危なかったぁ~! もう少しで社会的に死ぬところだったぜ……!
「じゃあ代わりに、今から私の家に来てくれませんか?」
「え、結衣ちゃんの家?」
突然の提案に思わず聞き返してしまう。
いや、別に嫌なわけじゃないんだけど、さすがに急すぎないか?
「はい、そうですけど……。もしかして、何か用事がありましたか……?」
不安そうに尋ねてくる結衣ちゃん。
うっ、そんな目で見られると断りづらいな……。
まあでも、たまにはそういうのもいいかもしれない。
最近は色々と忙しかったし、息抜きも必要だろう。
というわけで――。
「いや、大丈夫だよ。ちょうど暇してたところだし」
「そうですか? よかったです!」
嬉しそうに微笑む結衣ちゃん。
そんな彼女を見ていると、こっちまで幸せな気分になれる。
「それじゃあ早速行きましょう!」
「ちょ、ちょっと待って……!」
いきなり手を引っ張られて驚くものの、悪い気はしないので大人しくついていくことにした。
そして、しばらく歩いたところで、ようやく目的地に到着する。
そこは高級そうなマンションで、入口には警備員さんが立っていた。
まさかここが彼女の自宅なのか……? だとしたら、お嬢様すぎるでしょ……!
「さあ、どうぞ上がってください♪」
促されるままに中に入ると、中はとても綺麗で広々としていた。
まるでモデルルームみたいだ。
まさかとは思うが、本当にここに住んでるのか……?
「あ、あの……」
「どうしたんですか?」
「その、ご両親はいらっしゃらないのかな……?」
「え? ああ、言ってませんでしたっけ? 私一人暮らしなんですよ」
「……へ?」
ま、まじかよ……! ということはつまり、今この家にいるのは俺と彼女の二人だけってことだよな……? いやいや、それはさすがにまずいんじゃないか……? だって俺たちまだ学生だしさ……? いくら付き合っているとはいえ、まだ早いっていうかなんというか……。それにほら、親御さんも心配するだろうし……! って、何を考えてるんだよ俺は! 手を出すなんてありえないだろっ!!
「……くん? 悠真君ってば!」
「はっ!?」
結衣ちゃんに声をかけられ、ハッと我に返る。
いかんいかん、少し取り乱してしまったようだ。
とりあえず深呼吸して落ち着こう……。すーはー、すーはー……よし、大丈夫だ。
「ごめん、ちょっとボーッとしてたよ……」
「いえ、それは別にいいんですけど……」
なぜか頬を赤らめている結衣ちゃん。
なんで赤くなってるんだ……?
「それより悠真君、先にお風呂に入ってきてください」
「え、お風呂?」
「はい、お背中流しますよ♪」
「ええっ!?」
いやいやいや! お背中を流すとか、さすがにマズいだろっ!? ていうか、そもそも付き合って間もない男女が一緒に風呂に入ること自体問題ありまくりじゃないか!?
「そ、それはさすがにマズいんじゃないかな……?」
「大丈夫です! 私たち恋人同士じゃないですか♪」
「それはそうだけど……」
だからといって、そう簡単に割り切れるものではないと思うのだ。
少なくとも俺は無理だね!
「それに、私はもっと悠真君と一緒にいたんです! もう我慢できませんっ!!」
「ゆ、結衣ちゃん!?」
結衣ちゃんは俺の手を引いて強引に風呂場へと連れて行く。
どうやら本気のようだ。こうなったらもう逃げられないだろう。ならば仕方ない……腹を括るか!
「わかった! 俺も男だ! 覚悟を決めるよ!」
「ふふっ、それでこそ私の彼氏ですね♪ それではさっそく――」
こうして俺たちは互いに裸になり、そのまま二人で湯船に浸かったのだった。
ちなみに、背中を流すだけで終わるはずもなく――。
結局、結衣ちゃんの家に泊まった翌日。
朝起きたら隣で彼女が寝ていたのはまた別のお話である。

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