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#14 眉間のしわの思い出。

「あ〜あ」
鏡をみる度に悲しくなるのは、額にうきあがる眉間のしわです。眉間にしわがあると、それだけで何倍も印象が悪くなるらしく、YouTubeでも「しわを取ろう」という動画が、多数アップされています。時々、気が向いた時に試してみることもありますが、あまり効果はありません。

20代の頃はまだなかったと記憶しています。30代の頃も。40代に入ってからは、かなりくっきりと姿を表していました。おでこが狭く、目が一重なので、目をグッと開けようとする時に、額にも負荷をかけてしまうようです。ジージ(私の父)にも、その上のじいちゃん(私の祖父)にも、額に深いシワが刻まれていたので、顔の形や筋肉のつき方などの遺伝的な影響もあるのでしょう。

思い出すのは10年近く前のこと。関西で家族三人、母子家庭を続けていた私は、とうとうそのつらさに耐えきれず、子どもたちを連れて九州の実家に戻りました。両親はすでに定年退職していましたし、私は生活のために就職先を探しました。看護師の資格をもっていたため、ある病院で採用してもらえることになりました。病院の仕事、医療現場の仕事といっても、それぞれの病院ごとに働き方も全く違っています。まるで20代の頃に新人として就職したのと同じか、それ以上に慣れるのには苦労しました。

「新人さんより中途採用の人の方が、大変なこともあるのよ」
仲良くなった同僚の人に言われたこともありました。新人さんの場合、まだ自分の仕事のやり方やこだわりがない分、現場で教えてもらう知識をスーッと無駄なく吸収することができます。反対に、中途採用の場合、新たな知識を教えてもらっても、
「でもそれって、今まで私がやってきたやり方とは違うなあ」
とモヤっとする状況が、さまざまな場面で生じてしまうため、頭が整理され、現場での動きがスムーズになるまでに時間がかかったりするのです。

病院は、周りを田んぼで囲まれた場所にありました。田舎なので、皆、方言が強く且つ口も悪く、仕事以外の時間にはお互いをひやかしたり、ふざけたりして緊張を和ますような空気もありました。私がうまく仕事をこなせず、あわてた様子をしていると、
「○○さん(私の名前)、眉間にしわがよってるよ!」
と、ジェスチャーつきで声をかけてくれる、同じ年頃の男性スタッフがいました。普通なら、女性にそんな声かけをすると嫌がられるのでしょうが、転職して知り合いも少ない私にとっては、自分を気にかけてくれている人が居てくれる安心感の方が大きくて、
「いけない、いけない」
としわを撫でて、なんとか顔の表情を整えようしていました。

「トントン」
またある時は、パソコンとにらめっこしていた私の肩を軽く叩く人がいました。
「ん?」
振り向くと、私よりも年が一回り以上下の女性スタッフでした。
「大丈夫ですよ。○○さん(私の名前)は一人じゃないですから。困った時は周りに頼ればいいんですよ」
きっと私は、ものすごい形相でパソコンの画面をにらんでいたのでしょう。
(そんなにガチガチにならなくても、なんとかなりますよ)
そんな心遣いが伝わってきました。

一緒に働いていると、少しずつでも自分の人となりを周りの人に知ってもらえて、真面目で面白みはなくても、一生懸命に仕事をする人間だということがわかってもらえていた気がします。だから眉間のしわは、人相の悪さというよりも、真面目で悩みすぎるタイプの印として認識されていたのでしょう。

この先、またどこかで働き始めた時にも、眉間のしわが「話しにくそう、堅物そうだな」というイメージではなく、「ちょっと助けてやろうかな」と周りの人に思ってもらえるような、小さな糸口になってくれたらよいのですが・・・。




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