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#47印鑑にまつわるエトセトラ。

春が近づいています。今年はいよいよドラちゃんが就職する年です。大学で長く専門の学問を勉強してきたため、社会に出るのに人よりも時間がかかりました。本人も感無量なところがあるでしょうが、親であるわたしにも、さまざまな思いがわきあがります。

「ドラちゃんの就職祝いは、印鑑なんかどうだろう?」
テル坊がステキな提案をしてくれました。三十年ほど前、テル坊が就職するときに、テル坊のご両親がやはり印鑑を作ってくれたらしいのです。一生使うものだから、印鑑というのは縁起物なのだそうです。
「それはいい、きっとドラちゃんも喜ぶと思うわ」

ネットで検索してみると、印鑑屋さんも本当にたくさんあります。作る印鑑の種類も、実印・銀行印・認印でそれぞれに用途もサイズも違っているし、材質も木材系のもの、角・牙系のもの、金属や樹脂系のものと、さまざまなものが選べます。もちろん値段もピンからキリまで。今、男性の印鑑で流行っているのはチタンなのだそうです。

印鑑の書体にもいろいろあって、吉相体(きっそうたい)、篆書体(てんしょたい)、隷書体(れいしょたい)、古印体(こいんたい)など、書体の名前を知っているだけで賢そうな雰囲気を出せるのではと想像しました(とはいうものの、わたしはその場で聞いて、あっという間に忘れてしまいました。ここに書くために再度ネット検索したわけです)。

「印鑑なんて、一生に何度も作るものではないし、自分の目で確認したいよね」
ということになり、週末におじさんおばさんクラブ(テル坊とわたし)は、老舗のお店にも見学に出かけました。高級な印鑑が高級な入れ物に入っていると、目が飛び出そうな値段がするのだなあと、よい社会勉強にもなりました。

結局、家からほど近い場所で、口コミでも評判の町の印鑑屋さんを見つけ、そのお店で注文することになりました。30代の若くて体格のよい茶髪の店主さんが、一人できりもりしているお店でしたが、わたしたちが来店している間も、次々にお客さんがくるのでおどろきました。世の中にこんなにたくさんの人が、日々印鑑を買い求めているなんて、想像したこともありませんでした。

他のお客さんの注文の内容を小耳にはさむと、どうやら状況はうちと同じ方が多いらしく、子どもさんの就職祝いのようです。皆さん、どことなくソワソワしているというか、通常の買い物のときとは雰囲気がちがっていて、やはり何か特別なものを買い求めにきたという空気が漂っていました(きっとわたしたち、おじさんおばさんクラブも同じような空気をかもしだしていたことでしょう)。

「娘さんの実印の場合は、結婚して苗字が変わる方もおられるので、名前だけで作ることもできますよ」
と話していました。女の子の実印を作るときには、その先の将来についても一旦考えてから決めたほうがよいのだなあと思いました。

子どもが生まれると、親はその子の人生を同伴する名前をどうしようかと、子どもの幸せを願って一生懸命考え、名前をつけます。人は、その名前で周りの人たちに呼ばれ、自分もその名前に親しんで大人になったあと、今度は社会に出て、一人前の大人として何かしらの仕事をしながら生きていくことになります。「印鑑を作る」ということは、自分の名前をもう一度、自らの心に刻みつけ、その相棒(名前)とともに広い世界に船出していくような、心の作業を含んでいるのかもしれません。

名前には、それぞれ大切な意味があるとか、その名前をどのように印字することが、よい運気を呼ぶことになるかとか…。贈りものの印鑑をめぐって、何かしら目に見えない大きなもの力や流れを想像する、束の間の時間を味わうことができました。

あとはドラちゃんが、自分の印鑑を気に入ってくれたらと願うばかりです。




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