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メインイベント~目が合うひと番外編2【ショートショート】


⭐このお話は、こちらのお話の続きです。読まれていない方は、こちらを先に読んで頂くと繋がりが分かりやすいと思います。⭐




 「校歌斉唱」

 今は卒業式の練習の真っ最中だ。進行役の先生の合図で始まるピアノが奏でる校歌。だけど、みんなの声は小さい。校歌なんて歌うの、だるい。あたし達は、校歌や合唱コンクールで大きな声で歌うのは恥ずかしい事だと思っていた。こんな時に、大きな声で歌うのは決まって優等生達だった。

 「声が小さい。もっとちゃんと歌いなさい」

 先生はそう言うけれど、歌いたくないものは歌いたくないんだ。卒業式の練習もだるいし、めんどくさい。おまけに体育館の中は寒いし。お腹も空いてきたし、早く昼休みにならないかな、なんてあたしはぼんやりと考えていた。

 昼休み、仲良しのグループでお弁当を食べながら、おしゃべりしたりトランプをしたりする。そして、学校には持って来ちゃいけないお菓子をこっそり食べたりする。こんな楽しい時間ももうすぐなくなる。あと、10日もすれば卒業式だから。その前には、本命の高校の受験だってあるんだ。




 3月に入ると、もう授業はほとんどなかった。自習をしたり、卒業式の練習が一日のスケジュールだ。さすがに、自習の時間におしゃべりをする様な人はいなかった。あたしは、志望校を下げていたので多少は余裕があったけど、油断大敵というしそれなりに勉強は続けている。自習のプリントを解きながらも、横目ではしんやくんを見ている。

 しんやくんは、県外の私立も高専も、県内の私立も合格を勝ち取っていた。別にあたしがあげたお守りのおかげではなく、本当に彼は頭がいいんだなぁと改めて思う。
 あたし達の間は、別に何の進展もなく、あいかわらず目が合うだけだ。いったいなんなんだろう。少しはあたしの事、好きなのかな?もやもやするけど、今は受験が最優先。ほっぺを両手でパンっと叩いて、数学の問題に取り掛かった。

 放課後、みーちゃんとノンちゃんがあたしに声を掛けてきた。

 「みーゆちゃん。ね、卒業式の後どうするの?」
 「どうするって何が?」
 「もうー、決まってるでしょ。ボタンだよ、ボタン」
 「もらうの?どうする?言ったげようか?」

 ボタンかぁ。学ランの第二ボタン、欲しいけどもらえるのかなぁ。他にあげる子いないのかな。

 「もらえるのなら、欲しい・・・けど・・・」
 「分かった。じゃ、あたし達に任せてー!じゃあね」

 二人はそう言うと、あたしを残して走って行った。もう、あの二人はこの状況を楽しんでいるなと思いながら、助けてくれてはいるので乗っかろうと思った。同じクラスで家が近くのまきちゃんがそばにいたので、追いかけて一緒に帰る事にする。

 「いよいよ、明後日だね。受験」 
 「どうなるかなぁ。問題解くの、心配だ―。ちゃんとできるかな」

 同じ高校を受けるまきちゃんと受験の話や他愛のない話をしながらのんびり歩く。もうすぐ、中学を卒業する。友達とも離れ離れになってしまう。
 3年生のこのクラスは割と居心地が良かった。中には苦手な子もいたけど、あたしと仲良くしてくれる子の方が多い。みんなでおしゃべりしたり、こっそりお菓子を食べたりする、そんな時間がとても楽しかった。
 高校でも、こんな風に仲のいい友達ができるといいな。




 受験当日。今日と明日の2日間で試験が行われる。まきちゃんと待ち合わせて、緊張感の中自転車を走らせる。二人とも、緊張を紛らわせる様にわざとどうでもいい話を続けた。

 会場の教室に入って、試験が始まるのを待つ。不思議な静寂感に包まれながら、あたしはちょっとだけしんやくんの事を考えていた。あたしが心配しなくとも、彼はきっと合格を手にするだろう。あたしも、たぶん、大丈夫。

 問題が配られ、試験が始まる。問題をざっと見て、できる所から解いていく。思ったよりスラスラ解ける。うん、あたし大丈夫。このままいける。なぜか分からないけれど、あたしはそんな気がしてならなかった。

 2日間の試験も無事に終わった。ホッとした気持ちが大きかった。あたしは、1月に入ってからは朝方の勉強に切り替えていたので夜も10時には寝ていた。だけど、今日からはまた夜更かしができるし、我慢していたテレビや他のお楽しみもまたできる様になる。それがとても嬉しかった。

 その日の晩は、マンガを読んだり、お菓子をたくさん食べながら遅くまでテレビを見て過ごした。張り詰めた糸が切れた気がしたけれど、でも、あたしにはまだ重大なイベントが残っている。その時、しんやくんに何かあげようかな。明日、お店に行ってみようか。あたしはそんな事を考えながら、久しぶりにゆったりした気持ちで眠った。




 あたしは、駅ビルに買い物に来ていた。みーちゃん達は一緒じゃない。文具のフロアをうろうろしながら、あたしは何をあげたらいいのか悩んでいた。女の子にあげるプレゼントなら、ふさわしい物はすぐに見つかる。だけど、男の子には何をあげればいいんだろう。さっぱり分からない。考えれば考えるほど迷ってしまう。やっぱり、みーちゃん達と買いに来ればよかったのかな。でも、買い物くらい自分一人でしないといけないと思う。

 ああでもない、こうでもないと悩んだ末にようやく選んだプレゼント。悩んだプレゼントは、ボールペン。いつも買うような安いのじゃなくて、ちょっと高いボールペン。かっこいいペンを選んだつもりだ。しんやくん、受け取ってくれるかな。使ってくれるかな。

 そして、あたしは別のフロアで小さなかわいいバッグとハンカチを買った。白地に小さなうさぎさんがプリントしてあって、レースの縁取りのかわいいやつ。卒業式で泣いちゃったら、このハンカチで涙を拭くんだ。あたし、卒業式で泣けるかな。かわいく泣きたいなと思う。

 家に帰ると、みーちゃんから電話が掛かってきた。

 「みゆちゃん。卒業式の後、時間作ってもらったからね。明日、打ち合わせしよう」
 「分かった。ありがとうね。あのね、今日プレゼント買ってきたよ」

 それから1時間ほど長電話をしてしまった。みーちゃんと電話をするといつも長くなってしまう。どうしてあんなに話せてしまうんだろう。不思議だな。

 今日は卒業式の総練習がある。いよいよ明日は卒業式だ。重圧から解放されたからか、みんな笑顔だ。このメンバーで過ごすのもあと2日。クラスごとに整列すると、体育館へ向かった。

 うちの学校は、人数が多いので卒業証書はクラスの代表だけがステージで受け取るけど、一人一人の名前は呼ばれる事になっている。だけど、400人以上の名前が呼ばれるので時間が掛かる事この上ない。それに自分の名前を呼ばれて「ハイ」って返事をするのもなんだか恥ずかしい。
 1組から名前が呼ばれるけど、知らない人も一杯いるなぁと思う。顔しか知らない人、見た事無い人も大勢いる。誰かにとったら私自身も顔しか知らない人、見た事無い人なんだろうなぁと思うとちょっとおかしかった。

 今日は校歌も少し大きな声で歌えている。あたしも少しだけ大きな声で歌った。やっぱり、これで最後だから。たぶん、みんなも同じ気持ちなんだと思う。

 今日は3年生は午前中で帰る。放課後、みーちゃんとノンちゃんと明日の打ち合わせをした。

 「明日ね。卒業式の後に、しんやくんの家の近くの公園に来てもらうから。みゆちゃん、がんばるんだよ」
 「うん、がんばるよ。あのお守り渡した時よりは緊張しないと思うよ」

 いよいよ、勝負は明日だ。明日でみんな、終わるんだ。




 在校生や保護者の拍手に迎えられて、卒業生は入場していく。卒業式が始まる。この学校も、この先生たちも、このクラスも学年も、何もかもが今日で終わりだ。
 校長先生の挨拶に始まり、次々と式が進んでいく。卒業証書をもらう時はやっぱり時間が掛かる。あたしのクラスで半分だ。まだまだ時間が掛かるなぁなんて思いながら、前の方に座っているしんやくんの後姿を眺めていた。

 校歌や仰げば尊しなどを歌う頃には、泣いている子が多くなってきた。あたしはと言えば、泣きそうにはなっていても肝心の涙が出ずにいた。みんなと別れるのは寂しいし悲しい。たぶん涙は作られている。だけど、その涙は出てこないでいる。あたしの中のもう一人のあたしが「泣いたら負け」だと笑っているみたいだ。かわいく涙をこぼして、あのハンカチを使いたかったのに、まったくのムダになってしまいそうだ。

 卒業式も終わり、クラスに帰って来た。今度は担任の先生から卒業証書を受け取るのだ。卒業証書をもらい、先生の話を聞く。ああ、いよいよこれで終わりだ。クラスのみんなも同じ事を考えているのか神妙な面持ちをしている。けれど、あたしの頭の片隅では別の事を考えていた。あともう少ししたら、メインイベントが待っている。あたしはメインイベントに勝利できるのだろうか。ちゃんとプレゼントも渡せるのかな。ちらりとしんやくんの方を見ると、やっぱり目が合ってしまった。

 学級取り扱いが終わり、みんなと写真を撮ったり言葉を交わしたりしながらも、あたしの心臓はどきどきしてきた。もうすぐ、もうすぐ始まる。あたしのメインイベント、中学生活の集大成が。

「みゆちゃん。そろそろ行こうか?」

 みーちゃんが声を掛けてきた。




 三人でしんやくんの家の近くの公園に向かった。しんやくんはまだ来ていなかった。あたしは一人で公園の中に入っていった。みーちゃん達は少し離れた所で待っていてくれている。今度は、もう一人でも大丈夫。

 2~3分待った頃、しんやくんはやって来た。

 「しんやくん、わざわざごめんね」
 「ううん。それより、これ」

 そう言うと、しんやくんはあたしの手のひらにボタンを乗せてくれた。さっきまで、しんやくんの胸に付いていた二番目のボタン。目の前のしんやくんの学ランには二番目のボタンは付いていない。だって、そのボタンは今あたしの手の中にあるのだから。あたしは、嬉しさと恥ずかしさで顔も上げられなかったけれど、思い切って口を開いた。

 「ありがとう。大事にするね。あのね、これどうぞ」
 「・・・ありがとう」

 しんやくんは、あたしが差し出したプレゼントを受け取ってくれた。あたしは、何か気の利いた事をしゃべろうとするけれど、こんな時に限って頭が真っ白になってしまって何も言えなかった。しんやくんも何も話そうとはしない。お互い目が合ったり、うつむいたりで時間にすればほんの数分間の事だけど、あたしにはそれが1時間にも2時間にも感じられた。

 結局、それ以上の事はなく、あたし達は公園を後にした。

 離れた所で待っていてくれたみーちゃん達の所に行くと、よくやったねって褒めてくれた。あたしは右手にボタンを握りしめてみーちゃん達にお礼を言った。本当に、みーちゃん達には何もかも頼りっぱなしだったと思う。

 三人で公園から帰りながら賑やかにおしゃべりをする。

 「あたし達、高校、受かってるかな?」
 「受かってたらいいねー」
 「それよりさ、遊園地には何着ていく?何時頃行こうかー?」
 「あ、お父さんが乗せて行ってくれるって!うちの弟も一緒でいい?」

 中学は卒業したけど、あたし達の「これから」はまだまだ長い。とりあえず、高校に行くまでは自由を満喫しようと思う。卒業記念の小旅行で遊園地に三人で行く事になっている。それが楽しみでたまらない。ジェットコースターにたくさん乗りたいし、思い切り三人で楽しもうと思う。
 そして、高校生になったら、いろいろ楽しい事がしたい。高校デビューじゃないけど、春のおひさまのようにやわらかくて眩しい、そんな人になりたいと思った。

 「みゆちゃーん!もう、またぼんやりしてるー!早く行くよ」
 「あーん、ごめんってー!待ってよぉ」

 あたしは二人を追いかけながら、こんな楽しい日々がずっとずっと続いていくといいなと思った。






久々にショートショートを書きました。
卒業シーズンなので、第二ボタンをめぐる実話ベースのお話です。


このお話の続きですね。
このお話では、バレンタインの事を書いていましたが、その後の卒業式前後の事を書きました。

そして、高校編へと続くのです。


元ネタの記事はこちら



私は、何回も言っていますが、中高時代は本当に男っ気がなかったのです。で、若干きゅん♡要素があるのって、このくらいなんですよねー。つまらん学生時代ですよね。
なんで、実話ベースのみゆちゃんシリーズも、もうネタはありませんw
強いて言えば、「みゆさんは泣いた顔より笑った顔がかわいいよ」くらいです。ほーんと、マジつまんないですねぇ。
中高時代に彼氏彼女がいた方々が羨ましくてしょうがないですよー。
じゃあ、大人になったらどうなんだい?って言われたらねぇ。
ねぇ、どうなんでしょうねぇ(遠い目)。


と、ここまで書いたところで、タイムリーな記事を読ませて頂きました!
フォローさせて頂いている、あいこうしょうたさんの記事です。


そっかぁ、私の学生時代にきゅん♡が無かったのは、自分から取りに行かなかったからですねぇ。
たしかに、そうです。かのチーターこと水前寺清子さんも「幸せは歩いてこない。だから歩いてゆくんだね」と歌っておられますしね。
やっぱり、幸せは待ってても来ないんですよね。自ら掴みに行くものなんでしょうね。



今日も最後まで読んで下さってありがとうございます♪





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