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【シロクマ文芸部】閏年に出会ったら


 閏年にいつも再会する人がいる。

 彼は中学の同級生のたつきで、私は中学の頃に樹の事が好きだった。その時は付き合うどころか告白もした事は無い。密かに思い続けて、ただのクラスメイトの立場でいる事しかできなかった。あれから私は何人かの人と思いを通わせてきたけれど、なぜか樹の事は心の奥の深くて柔らかい場所にずっと居座り続けていた。

 再会する時はいつも偶然に出会う。前回の閏年の時も一人で駅ビルの書店をブラブラしている時にバッタリ出会った。

 「深月みつき?久しぶり」
 「あ!樹君じゃない。久しぶりだね。やっぱりまた会ったね」
 「ここじゃ何だからコーヒーでも飲まないか?」

 駅ビルの喫茶店で向かい合わせに座る私達。店員さんがコーヒーを持って来てくれた。このお店はコーヒーにホイップした生クリームが添えられている。私は、お砂糖は入れずに生クリームをコーヒーに浮かべた。生クリームはゆっくりゆっくり溶けていき、コーヒーを褐色に変えていく。

 どちらも話さずに静かな時間が流れる。時折カップを置くカチャンという音がするだけだ。だけど、この沈黙は嫌な感じはせず、どことなく落ち着く感じがした。しばらくして、この沈黙を破ったのは樹だった。

 「なあ、深月。今、付き合ってる奴いる?」
 「何、突然。今はいないけど、どうして?」
 「俺達、いつも閏年の時に会うだろう。これって何かの縁だと思うんだ。だから、次回の閏年の時にまた出会って、その時にお互いフリーだったら」
 「フリーだったら?」
 「その時は……、結婚しないか?」
 「はい?本気?なんで?私、意味が分かんないよ。なんで今じゃないの?」
 「今じゃないんだ。俺にも分からないけど、今じゃないんだ。もし、でいいからさ、頭の中に入れといてよ」

 そう言うと樹は伝票を片手に喫茶店を後にした。残された私は呆気に取られてしばらく席を立てずにいた。結婚っていったい何?しかも4年後に。おまけに私達は付き合ってもいなければ、気持ちをお互い伝えた事も無いし、それより何より連絡先さえ知らないのだ。

 それからの私は樹の事を心のどこかで気にしながら生きていた。

 私を好きだと言ってくれる人もいて、付き合ってみたけれど何かが違っていた。手を握られても、顔を包み込まれても、キスをされても、抱かれてみても、ときめかなかったし感じる事もなかった。

 それでも1年位は付き合ったけれど、別れてしまった。別れても、不思議と悲しみを感じる事は無かった。ただ、次の閏年に樹に会えなかったら一生独りかもしれないとは思った。

 時が流れて、次の閏年がやって来た。本当に今日、樹に会えるのだろうか。もしかしたら樹は誰かと一緒になっているのかもしれない。そっちの可能性の方が高い様な気がする。何だかすごくモヤモヤする。

 モヤモヤを抱えたまま仕事に向かった。何とか気持ちを落ちつけてデスクに座った。月末で忙しいのが気持ちを紛らわすのにちょうど良かった。そのまま業務に忙殺されて午前中が終わり、昼休みになった。

 お昼は近くのベーカリーでパンを買ってデスクで食べようと財布を片手に外に出た。まだ風は冷たいものの日差しが柔らかく照っていて、もうすぐ春が来る事を物語っているようだった。

 ベーカリーに入りトレーとトングを手にパンを選んでいると、見覚えのある人がパンを選んでいる。その人も私に気が付いたみたいだ。

 「今度も会えたね」


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シロクマ文芸部に参加します💛
今週のお題は「閏年」です。

先週はずっしりしたお話だったので、今週は不思議なほわんとしたお話が書きたかったんです。
この二人は運命の人同士だったのかな。




今日も最後まで読んで下さってありがとうございます♪

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