現代語訳『我身にたどる姫君』(第三巻 その43)

 十月二十日、関白は密《ひそ》かに女三宮を寝殿に移し、人々を驚愕《きょうがく》させた。中宮は娘の女四宮を権中納言と結婚させることで、女三宮を社会的に抹殺する目論見《もくろみ》だったので、関白の行動を「ひどく心外で不愉快な若作りだ」と憤慨したが、今となってはどうしようもない。
 帝のもとに輿《こし》入れした尚侍《ないしのかみ》の代わりとして、関白が女三宮を大切に扱ったのは言うまでもなく、故皇后宮と瓜《うり》二つの容姿・声・仕草《しぐさ》に感激し、熱心に愛情を注いだ。

(続く)

 関白は女三宮を自分の寝殿に招きました。これは正室として扱うことを意味しますが、一方でこれまでの妻(権中納言の母)を側室にすることはできませんので、表向きは二人とも正室扱いなのだと思われます。

 この行動に一番ショックを受けたのは中宮です。「娘の女四宮と権中納言の結婚で、女三宮の未来を絶つことができた」と喜んでいたのに、いきなり唯一無二の権力を持つ関白の庇護《ひご》下に収まってしまったからです。

 今回、中宮の心中を「女三宮を社会的に抹殺するつもりだった」と訳しましたが、意訳や誇張ではありません。原文は「いとようもて消たむと思し立ちつる」で、直訳すると「とても念入りに消したいと思っていた」になります。故・皇后宮と彼女の子どもたちが憎くてならない、中宮の小悪党な性格を示す表現です。

 さて、登場人物たちの結婚問題に関白が参戦したことで、人物関係図がごちゃごちゃしてきました。非常に分かりづらいですが、もし迷った場合は「第三巻 その36」の図まで戻ることをお勧めします。

 それでは次回にまたお会いしましょう。


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