現代語訳「我身にたどる姫君」(第二巻 その28)

「随分と嫌な言い方をしますね。何とも恐ろしい考えです。父からそのようなことを奏上《そうじょう》できるはずがありません。ああ、こうして見捨てられたままでいるのがつらくてなりません。今宵もむなしいまま、わたしを帰らせるおつもりですか」
 そう言いながら権中納言が局《つぼね》に入ると、中納言の君はたしなめた。
「見苦しい振る舞いを。もし、人にこのことが知られたら、どのように噂されるとお思いですか」
「それほどまで悪いことなのでしょうか。このような折にも、ひどくつれなくあしらわれ、思いを遂げることができぬまま終わってしまうのかと思うと、我が身が情けなくてなりません。どうやら女三宮は男女の情を解さぬ方のようですので、わたしから進んで打ち破りたいと思っているのです」
「まったく道理に合わない話です。どのように宮様に申し上げたものでしょうか」
 そう言いながら中納言の君は身体を寄せたが、権中納言は相手にしなかった。
(続く)

 権中納言は、中納言の君(女三宮の女房)に逢瀬《おうせ》の機会を作るように頼みますが、一方の中納言の君は権中納言に気があるため、安易に承諾しようとはせず、駆け引きに持ち込んでいます。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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