現代語訳「我身にたどる姫君」(第一巻 その8)

 ある激しい吹雪の夜更けのことである。
 いつもとは異なる人の気配に続き、門戸を叩《たた》く音がした。下人《げにん》が何者なのかと尋ねると返事が返ってきた。
「ひどい雪がやむまでの間、この門の陰で構いませんので、しばらく笠宿《かさやど》りをさせてください」
 開門と同時に大勢の人々が入ってきたらしく、立ち動く沓《くつ》の音が姫君のもとにまで聞こえてくる。「こんな深い雪の中、いったい誰が来たのだろう」と、好奇心旺盛な若い女房たちが覗《のぞ》き見をしながら大騒ぎし、侍従《じじゅう》の君も客人を意識して、大きな火取《ひとり》り香炉《こうろ》に薫《た》き物を置いて戸口で扇《あお》ぎ始めたが、彼女たちの様は姫君の目におこがましく映った。
(続く)

 物語のストーリー構成を「起承転結」で現すと、前回までが第一部の「起」で、今回のエピソードから「承」に入ります。
 ある吹雪の夜、突然屋敷に訪れた来客者が姫君の運命を大きく変えます。若い女房たちが見苦しいほどに騒いでいることから、どうやら身分の低くない若い男性のようですが、果たして何者なのでしょうか。

 それでは、また次回にお会いしましょう。


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