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映画『猫は逃げた』を観た話。


だらしないオトナって奴が、たまにいる。
こうはなりたくない、と思ってしまうオトナ。

でも、自分も人の事言えないかもって
たまに思ってしまう。


映画『猫は逃げた』。2022年3月18日に公開され、テアトル系等ミニシネマで公開中の日本映画。『愛がなんだ』『アイネクライネナハトムジーク』などで話題を博した今泉力哉監督と、Vシネマ・ピンク映画界のトップランナーである城定秀夫監督のコラボレーションプロジェクト「L/R15」によって生まれた映画。

主人公は、レディコミ漫画家の町田亜子(演:山本奈衣瑠)と、その旦那で週刊誌記者の広重(演:毎熊克哉)。2人はすれ違いによって冷え切っていた。あとは離婚届に判子を押すだけ、という時に広重がこう切り出す。「カンタのことはどうするの」と。カンタとは、二人の飼い猫。それをどちらが引き取るかはっきりさせるまでは離婚できない、と言い出すのだ。そこから、亜子と広重は、互いが通じている不倫相手まで巻き込んで、なんともハッキリしないもやもやとした日常を過ごすこととなる――


序盤から続くまったりとした、しかしどこかだらしない日常。「そんなに好きならとっとと別れて不倫相手とくっつけよ」と何回スクリーンにツッコんだことか。ふたりを繋ぐのは、猫一匹の存在だけ。それなのに二人はなかなか態度をはっきりさせない。結局、不倫なんてのは倦怠感のある日々にちょっとしたスパイスを与えるだけの調味料でしかない。2人のもたつき具合は、そのどうしようもない事実を如実に表していた。

しかし、そのまったりさを裏切るかのように
後半はひたすら笑い転げさせられた。

ネタバレを防ぐためにここに書けないのが残念なのだが、ダメダメな大人たちが繰り広げるルール無用・なんでもありの言葉の殴り合いがとにかくすごい。劇場で鑑賞していたのだが、クスクス、という観客の笑い声がどんどん、ワハハ!って感じでデカくなる。たぶん今まで見てきた数々の映画の中で、一番観客の笑い声がデカい映画だった気がする。あの演出といい、演技といい、まさに脱帽ものだった。


いつまでも素直でありたい、と子供の頃は願うものである。大人になって、嘘を付いたり、周りの目を気にしたりして疲れていく人間たちを見てきたから、自分はそうなるまいと心に誓うのだ。だが、そううまくはいかない。嘘も方便、という言葉の意味を知ったり、周囲と協調しないと何も進まない社会の構造を知って、しょうがないな、と諦めてしまうのだ。

素直になれない大人たち。でもみんなきっとそうなるんだよね。と悟って、まさに「今泉監督にすっかりしてやられたなぁ」というような清々しい気分で、私は映画館を後にしたのだった。アガペーからエロースへ。アガペーからエロースへ。

ちなみに「L/R15」プロジェクトでは今泉・城定両名が監督と脚本を交代する形で2本の映画が製作された。もう一本の作品である『愛なのに』ともリンクするかのような演出や要素がちらほらと伺える。こちらもぜひ合わせて鑑賞いただきたい。

(「愛なのに」のレビュー記事も
近日公開いたします。お楽しみに)



おしまい。



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