見出し画像

本当にスゴい「立体漉き和紙」の話 ~谷口・青谷和紙~

先日、渋谷ヒカリエ8Fで開催されていた展示イベント
『LONG LIFE DESIGN 1 〜47都道府県の健やかなデザイン展〜』に行ってきました。

ヒカリエ8Fのクリエイティブスペースでは、いつも素敵なイベントや展示が行われているので、
渋谷で少し暇な時間ができたりすると、ふらっと立ち寄る習性がある自分です。


「ロングライフデザイン」というキーワードで、47の各都道府県からひとつずつ選ばれたプロダクトが展示されていたのですが、
その中の、とあるプロダクトに一目惚れをしてしまいました。

そのプロダクトというのが、鳥取谷口・青谷和紙さんによる『Mokumoku Tablestand』です。
現代風の洗練されたデザインで、伝統と革新が融合した素晴らしい製品だと思います。

とはいえ、和紙を使った照明器具自体は、決して珍しいものではありません。
しかし、僕はこれを見た瞬間に衝撃を受けました。

お分かりでしょうか?
この和紙、よく見ると継ぎ目が無いんです。


和風の料理屋さんなどで、和紙シェードの丸い照明をよく目にしますが、たいていはこういう造りになっているはずです。

本来、和紙に限らず、紙というのは平面状に作られるものです。
したがって、こういう照明を作るには、どうしても紙と紙を貼り合わせた部分に継ぎ目ができてしまいますし、
曲げた竹や金属などで作った骨組みを仕込んで、立体を保てるようにする必要があります。


しかし、この『Mokumoku Tablestand』の和紙は、そもそもが立体に漉いてあるのです。
そのため、紙の継ぎ目や竹の骨が透けて見えることはなく、
結果として、なめらかな線の輪郭均一で穏やかな灯を実現しています。

和紙そのものを球体状に3次元で漉き上げる「立体漉き和紙」は、
谷口・青谷和紙さんだけが持つ、世界で唯一無二の技術だそうです。

もちろん、これは長年受け継がれてきた伝統の高い技術力があるからこそできるものだとは思いますが、
それ以上に、紙は平面状のものであるという「常識」を覆した発想がすごいです。

どの業界でも言えることですが、その業界を知り尽くした熟練の職人のような人ほど、それを否定するような柔軟で斬新なアイディアを出すのは難しくなるものです。

これぞ、まさにイノベーションだと感じました。


実は、僕は以前から伝統工芸に興味があって、伝統工芸関連のイベントに参加したり、実際に工房を見学したりしたことが何度かあるのですが、
和紙についても、1年半ほど前に、福井の越前和紙の里で和紙の制作過程を見学したことがあります。

その程度の浅い知識ではありますが、曲がりなりにも「和紙はこうやって作るものである」という先入観を持っています。

工程の細かい説明は割愛しますが、その中でも紙を「漉く」工程は最も重要なものです。

僕が越前で見学した「流し漉き」の手法は、上の動画のように、
簀桁(すげた)という道具を使ってすくい上げた紙料液を、縦横に揺り動かすことで繊維を複雑に絡み合わせます。
当然かなりのコツが必要で、なめらかで薄くて強い均一な紙を作る「漉き」は、職人さんの腕の見せ処のでもあります。


ちなみに、このとき使う簀桁も、別の職人さんによる手仕事によるもので、
濡れたときの反り具合まで計算された、繊細で精巧な造りになっています。

この簀桁を作る職人さんも最近少なくなってきているそうで、
もしも簀桁を作る技術が途絶えたら、和紙職人さんも和紙を作れなくなってしまいます。

各地で受け継がれている様々な伝統産業の多くは、古くから分業制を基本としてきました。
各工程を、それぞれ専門に特化した職人が行うという形を取ることで、
高度で特殊な製品を効率的に生産できたという背景があります。

こうした分業制には、産業に関わる人達全体の生活を安定化させるというメリットもあったと思われますが、
伝統産業全体が衰退しつつある今では、残念ながら、
ある一工程の後継者が途絶えた瞬間にその産業自体が消滅してしまう、そんな危機に瀕しているケースも、決して珍しくありません。


ちょっと話が逸れました。

和紙というのは、楮・三椏・雁皮といった植物の繊維に、トロロアオイなどから取れる糊と水を混ぜた液を、簀桁という枠ですくい取って水をゆっくり抜いて、それを乾燥させて作ります。
全国各地にいろんな手法で作る和紙がありますが、基本的には大体こういう流れです。

液状の原料を平面の型に合わせて成型する以上、紙は平面にしかならないはずなのです。


ならば、立体の型で漉けば立体の紙ができるんじゃないかと。
実際のところ、半球型の立体漉き和紙は、それ以前からいくつかあったようです。
確かに、料理で使うザルのような型を用いれば、半球型の和紙を作ることができると思います。

しかし、球体のような、大きな穴が開いていない閉じた形の立体となると、型が抜けないため不可能だとされてきたのです。

それを、谷口・青谷和紙さんは可能にしたということなんですね。
いろんな形状の自由曲面での成形ができるようで、商品ラインナップには、ユニークでお洒落なデザインの照明がたくさんあります。


それならば!

どうやって作っているのか!

分からない!気になる!知りたい!

ということで! 教えてGoogle先生!




企業秘密でした。


そこにシビれる! あこがれるゥ!


この記事が参加している募集

イベントレポ

飲食店の開業を目指して準備をしています。バカな若者をちょっと応援したいと思った方、サポートお願いいたします。 スキ・コメント・SNSシェアだけでもとても嬉しいです。