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【ショートショート】 ある日この頃

胸につかえるモヤモヤ。食道におにぎり一個がつかえているような気がする。胸より下も人形が詰まっているようで、すっきりとしない。
腹の虫が鳴いている。何がどーってわけじゃない。
朝6時に目が覚めてから、用を足しにトイレへ足を運んだ。ベッドへ戻り、うたた寝する。天井を見上げたまま、寝返りすらうたず、起き上がろうとする気力は毛頭ない。
とはいえ、何もしないでも空腹は訪れ、体が喚きだす。寝巻のまま徒歩3分圏内にある、中華料理屋へ向かう。くたびれた年季の入った赤い暖簾、顔が皺だらけの店主と若干腰が曲がっている奥様であろう二人が醸し出す雰囲気酒もあてもないのに酔いしれ、半チャーハンと中華そばを5分で胃袋に収める。

時の経過が全てを解決してくれると、頻繁に耳にする。ただじっとこらえて、喉物を過ぎ、釈然としないまま、唖然と客観視できれば、それは楽かもしれない。
心底に淀んでいる濁った水の浄化。正義感、義務感、精一杯に心中で格闘していることを理解した。脱皮とはつらいもので、道端に転がっているセミの抜け殻が頭をよぎる。

話を聞いてくれるあいつ。いつも何かあれば、即時の返信、折り返し電話。見習うことが多い女性の友人K。電話で呼び出し、上野の喫茶店で待ち合わせた。俗に言う、昔からの腐れ縁。卑しい関係柄では決してない、それが可能な唯一の間柄。

2時間程度、雑談を交わして、別れた。互いに、「またね」「ありがとう」と円らにささやいて。
結局、心情に変化は起きなかった。もやもやが残る。歯と歯の間にひっそりと佇みながらも、気になってしまうネギの残りかす。昼に平らげたラーメンとチャーハンの白髪ねぎだろう。心をほぐす爪楊枝を作りたい。

夕日が映える荒川の川沿い。たこ焼きと缶ビールを買って、くつろぐ。
そして、野良犬と川を眺めてた。
この野良犬をケンタと名づけ、語り掛け、頭をなで、静かにじゃれた。
一方的にケンタに話しかけ続けた、お詫びから、たこ焼きを分けた。

ケンタは僕の心を開放してくれた。
ただただ話を聞きき、つぶらな瞳で尻尾をふり、合図を送ってくれる。
ただただ傍に寄り添ってくれた。

変わったことといえば、時が経過したこと。
心が解きほぐれたこと。

真っ赤な大きな夕日が沈むころ、ケンタは当然サヨナラも告げず、唐突に駆けていった。


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