蜘蛛の巣

青葉を食べながら、もう気づいていた。ああ、蜘蛛の巣があるって。
だから、動かなくていいように食べる量を最小限にして、蜘蛛の巣に引っかからないようにさなぎになった。

繭から出てみると、まだ蜘蛛の巣があった。
繭から出るときに伸ばした羽に、蜘蛛の糸が少し引っかかったみたいだけれど、それくらいなら大丈夫。
周りは蜘蛛の巣だらけ。
わずかに蜘蛛の巣が薄いところから抜け出そう。
まだやわらかい羽を力いっぱい羽ばたかせて、蜘蛛の巣なんか突き破ってやろう。

羽が重い。
でも、ここでとまるわけにはいかない。
向こうでは、自由に羽を羽ばたかせている仲間がいるんだ。

思うように羽が動かせない。
でも、もう少しだ。
向こう側に行って、僕も好きなように飛び回るんだ。

羽が白くなってる。
羽は、もうわずかに動くだけで、羽ばたくことはできない。
ああ、あそこで仲間たちは、飛び回っている
もう少しだったのに。
ここを抜け出さないと、みんながいるあの場所にはいけないのに。

遠くで蜘蛛がニヤニヤ笑ってこちらを見ている。
そんなに面白いか?
周り中に糸を張り巡らせて、ゆっくりと身動き取れなくしていくことが、そんなに面白いのか?
僕の卵をここに動かしたのはお前なんだろう?
僕がわかっって無いわけないだろう。でも、きっとお前は分からないんだろうな。
そうやって、自分より体が大きくて美しい僕を自分のものにしたつもりなのか?
自分の力で何かを勝ち得たわけでもないのに、そんな姑息なことをしてまで認められたいのか?
そんなことで自尊心が満足するなんて、可哀想な生き物だな。

でも、残念。
お前の思うようにはさせないよ。

最後の力を振り絞り、わずかに揺れる羽を無理やり揺さぶり、僕の体はボトッと地上に落ちた。

<終>(2012年)


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